みかん小説
本棚

"出征前夜、夫から突然の離縁状――日記に隠された本心" 第6話

初めて逆らった

「何を馬鹿なことを言ってるんだい」

叔母の声が段くなった。

「縁されたんだろう。だったら、もうあんたは野のじゃない。いつまでもここにいられるわけがないよ」

私は膝ので拳を握った。

怖くなかったわけではない。

歳で母をくして以来、叔母に逆らったことは度もなかった。根と事を与えてもらっているのだから、何を言われても従うのが当然だとっていた。

だが今、私のろには淳さんの文机があった。

そこには、私が初めてった夫のが残されている。

「こののことは、旦様から私に任されています」

半分は咄嗟にた言葉だった。

実際、淳さんは征に米の所、町内会への届け、税や配のことを細かくいたを私へ渡していた。

「留守を守ってほしいとは言われました」

叔母はで笑った。

「でも縁したんじゃないか」

「はい」

「だったらだよ」

胸が痛んだ。

それでも私は引かなかった。

「それでも、帰りません」

「野さんがんだらどうする」

あまりにも簡単に言われ、息が止まりそうになった。

叔母は構わず続ける。

「戦争へった男が皆帰ってくるとっているのかい。若いうちに次を探した方があんたのためなんだよ。せっかく話を持ってきてやったのに」

以なら「ありがとうございます」

広告

と言っていた。

けれど今は、その「ため」という言葉が、淳さんのものとは全く違って聞こえた。

淳さんも私のためだと言って縁した。

だが、あのは自分が何も得ないを選んだ。

叔母は違う。

の縁談では支度を受け取っていた。

今度の相からも何か話があるのではないか。そう考えた瞬、い見ないふりをしていたものが、急にはっきり見えた。

「叔母さん」

「何だい」

「の、支度をいただいたと言いましたね」

叔母の表が固まった。

「それがどうした」

「今度の方からも、何かいただくんですか」

「キヌ!」

初めて叔母の声を正面から受けた。

それでも俯かなかった。

叔母はしばらく私を睨んでいたが、やがてちがった。

「勝にしな。泣きついてきてもらないからね」

「はい」

「本当に分かってるのかい。野さんはあんたを捨てたんだよ」

私は記のことを言わなかった。

淳さんが私を嫌って縁したのではないと、叔母に説する必はなかった。

「それでも待ちます」

叔母は何も言わず、乱暴に玄関を閉めて帰っていった。

のが静かになった。

から力が抜け、そのに座り込んだ。

が震えていた。

私はいではない。

たった数分叔母に逆らっただけで、臓が痛いほど鳴っていた。

それでも、議な気持ちだった。

怖いのに、息がしやすかった。

広告

自分ので初めて、自分で決めたからだ。

翌朝、私は夜けに起きた。

いつものように井戸へき、を汲んだ。

そして竈にを入れた。

薬缶のがしずつ温まっていく。

淳さんはいない。

洗濯をするのは私だから、湯を用する必もない。

それでも私は、瓶へしだけ湯をした。

い湯気が朝の空気に溶けていく。

「おはようございます」

誰もいない庭へ、さく言った。

返事はない。

私はそれから毎朝、湯を沸かすようになった。

淳さんがしてくれたように。

あのがいつ帰ってきても、昨までと同じ暮らしに戻れるように。

が過ぎ、が来た。

淳さんから最初の便りが届いたのは、征からかだった。

い軍事郵便だった。

『元気です。のことは配しないでください。あなたも体を事に。』

それだけだった。

名もない。

帰るともかれていない。

けれど宛名には、はっきりと。

『野キヌ様』

そうかれていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: