"出征前夜、夫から突然の離縁状――日記に隠された本心" 第5話
縁状の本当の
をくまでに、私は随分いをした。
読んでしまえば、今まで信じていたものが全部変わってしまう気がした。縁されたという事実も、淳さんに嫌われていたとった々も、駅で度も振り返らなかった背さえも。
の最初には、こうかれていた。
『キヌへ。』
たったそれだけで涙が落ちた。
記のでは何度も私の名をいているが、実際にはほとんど呼んでくれなかった。昨夜、縁を告げるに度呼ばれたことだけが、私にとって最初で最だとっていた。
私は袖で目元を拭い、続きを読んだ。
『これを渡すべきか、渡さない方がいいのか分からない。だからくだけいて、机にしまう。俺が帰れば、捨てればいい。帰らなければ、そのは誰かが見つけるかもしれない。』
その先には、私と結婚した理由がかれていた。
叔母が縁談を持ち込んだ、淳さんは度断ろうとしたらしい。
軍務に就く自分が庭を持つことに迷いがあったこと。それでも私について「両親をくしてから親戚ので働き続けている娘だ」と聞き、会うだけ会ってほしいと言われたこと。
そして初めて私を見た、叔母が私を「文句を言わない働き者」と説するのを聞いて、腹がったとかれていた。
『あれは娘を褒める言い方ではなかった。
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使いやすい奉公を紹介するようだった。』
私はそこで読むのを止めた。
あの、私自も同じことをじていた。
けれど誰にも言えなかった。
淳さんだけが気づいていた。
『本にこの縁談を望んでいるか聞いた。キヌは「はい」と答えた。しかし横で叔母が見ていた。本当に本の望みだったか、今も分からない。だからなくとも、このでは嫌なことをいたくない。』
それが、別々の部で眠った理由だった。
私が望んでもいない夫婦の務めを求めれば、叔母のと何も変わらなくなるとったという。
私は唇を噛んだ。
全部、逆だった。
距を置かれているとっていた。
触れたくないほど嫌われているのだとっていた。
けれど淳さんは、私が自分のでここにいるのか分からないから、づけなかったのだ。
記を読み返す。
『が治るまで、朝だけ湯を作ることにした。本に言えば慮するだろう。』
『今、針で指を刺した。拭いを渡したら困った顔をされた。余計なことだったかもしれない。』
『。傘を本くしておいた。持っていったのでした。』
そして召集令状が届くしの。
『いつか、ここを自分のだとってくれたらいい。急がなくていい。』
胸が痛かった。
その願いが、ようやく叶いかけたに召集令状が来たのだ。
の最には縁についてかれていた。
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『この先どうなるか分からない。戦へけば、戻れないこともある。妻のままでいれば、キヌは俺を待つだろう。あのはそういうだ。何でも待ってしまう。だから縁する。んでくれて構わない。実へ戻ってもいいし、のと暮らしてもいい。まだなのだから、自分のをきてほしい。』
を握るが震えた。
最の数だけ、墨のがし濃かった。
何度もを止めながらいたようだった。
『本当は帰ってきたい。帰った、あのにキヌがいたらとう。だが、そんなことを望む資格はない。』
そして、そのに。
『度でいいから、俺の名を呼んで笑う顔を見たかった。』
声を押し殺して泣いた。
なぜ言ってくれなかったのだろう。
なぜ勝に私のを決めたのだろう。
腹がった。
しかった。
それでも、初めて分かった。
私が淳さんを待ちたいとっている。
妻だからではない。
叔母に決められた縁談だからでもない。
あのが私の荒れたを見て、誰にも言わず毎朝湯を沸かしてくれたから。
野へ来て初めて、私は自分の茶碗を持った。誰にも取られない布団があった。失敗しても鳴られなかった。
そして何より、淳さんは度も私を「役につ女」として扱わなかった。
私は縁状を取りした。
しばらく見つめたあと、記と緒に文机の奥へ戻した。
翌朝。
荷物を持って叔母のへ戻るつもりだった私は、呂敷をほどいた。
その、玄関の戸を激しく叩く音がした。
「キヌ! いるんだろう!」
叔母の声だった。
戸をけるなり、叔母は私の顔ではなく部のを見回した。
「縁されたんだってね。野さんから話は聞いてるよ。荷物をまとめな。ちょうどいい縁談がもうつある」
私はを疑った。
淳さんが征して、まだしか経っていない。
「次の方?」
「そうだよ。今度は商だ。男はだけどを持っている。話を逃したら損だよ」
以の私なら、黙って従っていた。
けれど、その朝は違った。
「帰りません」
叔母が目を見いた。
「何を言ってるんだい」
私は初めて、叔母の目を正面から見た。
「私はここで、淳さんを待ちます」
その瞬、叔母の顔から笑みが消えた。