"出征前夜、夫から突然の離縁状――日記に隠された本心" 第4話
振り返らない背
翌朝、駅はであふれていた。
の丸の旗を持った子どもたち、い襷をかけた婦会の々、息子の腕をせず泣いている母親。汽の到着を告げるベルと々の声が混ざりい、普段のさな駅とはまるで別の所のようだった。
「来なくていいと言ったでしょう」
私の姿を見た淳さんは、眉を寄せた。
「荷物をお持ちします」
「必ありません」
「では、ここにいます」
淳さんは何も言わなかった。
昨夜渡された縁状は、私の帯のに入っていた。
枚で、私はもう野の妻ではないのだという。それでも、この朝だけは最まで妻として見送りたかった。
「野!」
仲らしい男がくから呼んだ。
淳さんは軽くをげた。
その表はにいるより柔らかかった。
私はしだけ寂しくなった。
私には、あんな顔を見せてくれたことがない。
「では」
淳さんが言った。
「はい」
「体に気をつけてください」
それが別れの言葉だった。
私は何か返さなければとった。
どうか無事で。
帰ってきてください。
待っています。
たくさんの言葉が喉まで来たのに、昨「待たなくていい」と言われたことをいすと、何つにできなかった。
結局、私はをげた。
「旦様も、お元気で」
汽が入ってきた。
の波が斉にいた。
淳さんは度もこちらを振り返らず、客へ乗り込んだ。
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窓際の席ではなかったのか、その姿はすぐにに隠れた。
汽笛が鳴った。
輪がゆっくりき始める。
周囲では何ものが泣きながら名を叫んでいた。
「必ず帰ってこいよ!」
「体を事にね!」
「父ちゃん!」
私は何も言えなかった。
ただ汽が見えなくなるまで、ホームの端でをげていた。
やがて黒い煙だけがくに残った。
顔をげた、私はもうだった。
野へ戻るは、昨までよりくじられた。
をけても、「ただいま」と言うはいない。
玄関には淳さんの履もない。
台所へくと、朝使った茶碗がつ伏せてあった。洗えば片付くのに、私はなかなかを伸ばせなかった。
、叔母のへ戻らなくてはならない。
そうった。
縁された女が、いつまでも元夫のにいるわけにはいかない。
私は荷物をまとめ始めた。
元々、自分の物などしてなかった。着物を呂敷に包み、母の櫛を箱に入れる。それだけで、歳の私のはほとんど収まってしまった。
最に、淳さんの部を片付けることにした。
机のにはき損じたが数枚残っていた。を洗い、硯を片付け、引きしを閉めようとしただった。
奥に何かが引っかかっている。
し力を入れて引くと、冊のい帳面がへ落ちた。
拾いげようとして、私はを止めた。
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表の内側に、さく文字がかれていた。
『キヌ』
私の名だった。
見てはいけないものだとった。
けれど、もう縁されただ。
にはこのをる。
なぜ夫だったの帳面に、自分の名がかれているのか。その理由をらないままることができなかった。
震えるで最初の頁をいた。
『。今、キヌがこのへ来た。』
私は息を呑んだ。
次のには、こうあった。
『がひどく荒れていた。あので、どんな暮らしをしてきたのだろう。』
頁をめくった。
『朝、名を呼ぼうとしたが、できなかった。』
さらに次の頁。
『噌汁をうまいと言ったら、し笑った。あの顔を、もう度見たいとった。』
私は畳のに座り込んだ。
たいだとっていた。
私を疎んでいるのだとっていた。
けれど記のには、私のらない淳さんがいた。
そして召集令状が届いたの頁には、たっただけかれていた。
『俺のせいで、キヌを未にはしたくない。』
目のの文字が、涙で滲んだ。
けれど、その頁のにはもう枚。
私宛てらしい、封のされていないが挟まっていた。