"四十九日の絶縁" 第9話
数ヶの泣き声と、ピンクのママチャリ
季節は巡り、の刺すような寒さがを包み始めた初旬。 あの以来、義実からの連絡は完全に途絶え、私と、陽翔のは、公平が遺してくれた自宅で、静かで温かい平穏な々を取り戻していた。
私は勤めた設計事務所を円満退職し、自宅の階を改装して『浅野級建築士事務所』をちげていた。 公平の遺志を継ぎ、族が笑顔で暮らせる温かい宅の設計を掛ける私の元には、職のクライアントや友たちから、途切れることなく仕事の依頼がい込んでいた。
そんなあるの午。 事務所のデスクで図面を引いていた私のスマートフォンが、な子音をてて震え始めた。 ディスプレイに表示された番号は――義実の固定話だった。
眉をひそめながら通話ボタンをスワイプする。 「……はい、浅野ですが」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、予だにしなかった、啜り泣くような老婆の声だった。 『……ううっ……うう……裕子さん……裕子さんかい……?』 を激しくすする音と、掠れた湿っぽい声。
「……どちら様でしょうか?」 私がわざとたく儀に問いかけると、相は激昂するでもなく、けない声で縋り付いてきた。
『どちら様だなんて、そんな臭いことを言わないでちょうだい! お母さんよ! あなたの義理の母親の、悦子よ!』 「ああ……おばさんですか。
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お久しぶりですね。何かご用でしょうか」
『お、おばさん!?』 話の向こうで悦子が息を詰まらせた。 『なんなのよ、そのたい言い方は! 息子がんだって、あなたがうちの嫁であることに変わりはないでしょうが!』
「嫁、ですか?」 私は図面のに鉛を置き、背もたれに寄りかかってさく失笑した。 「確かの法の、私の荷物を粗ゴミ置きに投げ捨て、『息子のいない嫁は所詮赤のだ、とっととていけ』と払いをらわせたのは、どこのどなたでしたっけ?」
『あ、あれは……あれよ! 単なる言葉の綾じゃないの! 気が転していただけよ!』 「言葉の綾で、喪を着たをゴミ捨てに放りせるなんて、ずいぶん便利な語彙をお持ちですね。それで、何の用件ですか? 仕事ですので、にお願いします」
私の容赦のない切り捨てに、悦子は瞬絶句したが、やがて再び猫なで声に戻り、惨めなの話を始めたのだ。
『実はね……裕子さん。昨、お呂の敷居の段差でを滑らせて転んでしまってね……首をひどく捻挫してしまったのよ』 「はあ。それはお気の毒に。形科へかれたのですか?」 『それが……痛くて歩けないのよ! にも乗れないから、買い物にもけなくて、ののべ物が底をつきそうなの!』
「に乗れない? お義母さん、運転免許なんてお持ちでしたっけ?」
『ち、違うわよ! あの……ピンクのママチャリのことよ! 自転が漕げないのよ!』
吹きしそうになるのを、私は必に噛み殺した。 義母がかつて「」と呼んでいた、カゴの錆びた物のピンクの自転のことだ。
「それなら、自の次男のお嫁さん――さおりさんにお願いされたらどうですか? 柄も素らしくて、ご両親も揃っていて、あなたの理の『本物の嫁』なんでしょう?」 『だ、だから……さおりさんは今、シンガポールにいるじゃないの! 頼めるわけないでしょう!』
「そうですね。では、いくらで雇ってくださいますか?」 『……は? いくらって、何がよ?』
「私が政婦として、あなたのの回りの世話をするための当の話です」 私の声から、完全にすべてのを抜きった。