"俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日" 第9話
のカフェと解かれた線
連絡通での拒絶からが過ぎた。
その、社内でエリカとすれ違うことは度ほどあったが、彼女は完全に「経理課の氷の女」へと逆戻りしていた。公平が会釈をしても、線を微だにさせず、まるで壁の染みでも見るかのように通り過ぎていく。
自ら蒔いた種とはいえ、その拒絶は公平の胃の腑をく締め付けていた。
そんな曜の夕方、公平の私用スマートフォンに、見覚えのない通が届いた。社内チャットツールではなく、以連絡先の交換をしたメッセージアプリからだった。
『今の退勤、駅の喫茶「ルノア」でお話ししたいことがあります。をいただけますか。桐』
拒否する理由はどこにもなかった。
午半。駅のロータリーに面した古い純喫茶の扉を押すと、カランコロンと控えめなベルの音が鳴った。内はジャズがく流れ、暗い琥珀の照が漂っている。奥の窓際のボックス席に、エリカはすでに座っていた。
トレンチコートを脱ぎ、のタートルネックセーター姿のエリカは、公平が向かいの席に腰をろすなり、メニューにもをつけず、真っ直ぐにその瞳を捉えてきた。
「迷惑なら迷惑って言って」
く、引き締まった声だった。っているのではない。切の誤魔化しを許さない、真剣な差しだった。
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「でも、迷惑じゃないなら……どうして私から距を取ろうとするの?」
公平は線を落とし、テーブルの目を指先でなぞった。
「……迷惑なわけがありません。ただ、甘えすぎだとったんです。桐さんには桐さんの活がある。独の俺が血の繋がらない双子を育てているという、い現実に……これ以あなたを巻き込むわけにはいかない」
「巻き込む?」
エリカがさく息を呑み、自嘲するように元を歪めた。
「あなた、私のいちを聞いて何をった? 派なボランティア精神で、同からあなたたちに施しをしているとでもったの?」
「そんなにはっていません!」
「じゃあ、なんで!」
エリカの声が、張り詰めた内に微かに響いた。隣の席の客が瞬振り返るが、エリカは構うことなく、膝ので握りしめた拳を震わせた。
「私ね、ずっとだったの。物ついたから施設で、誰も信じられなくて、誰にも頼れなくて……必に勉して、資格を取って、誰にも文句を言わせないように仕事をしてきた。隙を見せたら、親のいないな子だって同されるのが怖くて、ずっと鎧を着てきてきたのよ」
エリカの瞳に、い涙の膜が張っていく。
「そんな私が……あのファミレスで、もこちゃんが私の膝に乗ってきて、りこちゃんが私のの裾をぎゅっと握ってくれた……何ぶりかで、胸の奥がじんわりと温かくなったの。
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『族』って、こういうものなのかなって……まれて初めて、あたたかい所に触れた気がしたのよ」
エリカは顔を伏せ、テーブルに落ちた自らの涙の粒を見つめた。
「それを……あなたはいきなり『もう来ないでください』って切り捨てた。……族の温かさを度でもわわせておいて、また元のたい暗に突き落とすなんて、あんまりじゃない。……責任とってよ」
公平の呼吸が止まった。
善でも、同でもなかった。彼女もまた、公平と同じように、い孤独のので誰かの温もりを渇望し、必に踏ん張っていたのだ。
「それに……」
エリカがゆっくりと顔をげた。涙で濡れた瞳が、公平のを射抜く。
「私、ずっとから……あなたのことが好きだったのよ」
「……え?」
「睨んでいたわけじゃないの。入社してきたから、あなたがいつも疲れた顔をして、でも真面目で、誰に対しても誠実で……定になるとるように帰っていく姿を、ずっと目で追っていたの。気になるのに、どう声をかけていいか分からなくて……ただ真っ直ぐ見つめることしかできなかったのよ。差し戻しのメールだって、そう。しでも話すきっかけが欲しかっただけなのに、素直になれなくて……」
点と点が、瞬で本の線に繋がった。
あの徹な線。あの鋭い差し。あれは敵などではなく、器用すぎる女性の、精いっぱいの好のサインだったのだ。
「……俺も、怖かったんです」
公平は絞りすように言葉を紡いだ。
「両親が突然いなくなって、最の妹も突然いなくなった。事なは、いつだって俺のから急に消えてしまう。だから……あなたとのが温かくなればなるほど、いつか失うのが怖くて、自分から先にざけてしまったんです。……本当に、ごめんなさい」
「謝ってほしいんじゃないわ」
エリカはテーブル越しにを乗りし、真っ直ぐに公平を見据えた。
「私にも、背負わせて。妹さんと交わした約束の半分を、私にも背負わせてほしいの」
窓のでは、のたいがガラスを叩き始めていた。だが、テーブルを挟んだのには、何も凍りついていた氷が完全に溶けり、確かな体温が流れ込んでいた。