"俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日" 第7話
ファミレスの折りとうさぎの刺繍
保育園のの通りをし歩いたところにある、黄い板のファミリーレストラン。
平の夜過ぎの内は、族連れや学たちで賑わっていた。案内されたボックス席の片側にエリカと双子が並んで座り、通を挟んだ向かい側に公平が腰をろした。
職で最も恐れられている経理主任と、ファミレスのボックス席で向かいっている。その現実の奇妙さに、公平はメニューをく先が微かにぎこちなくなった。
「もこ、ハンバーグにする! ポテトも!」
もこは席ので体を揺らしながら、即座にべたいものを指差した。
「りこは、何にする?」
公平が尋ねると、りこはメニューの写真をじっと見つめたまま、やはりをかない。
すっと、エリカのが伸びた。エリカはりこの顔の横までを屈め、さな声で優しく囁きかけた。
「うどん、温かいのあるよ。それとも、あのくまさんのオムライスにする?」
りこが、オムライスの写真を指先でツンと突いた。
「オムライスね。ケチャップでハート描いてもらおうか」
エリカが員を呼び、際よく注文を済ませる。その流れるような自然な振るいに、公平はただ嘆するしかなかった。
料理が運ばれてくるまでの、持ち無汰になったもこが退屈そうにをブラブラさせ始めた。
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するとエリカは、持っていた通勤バッグから、綺麗に揃えられたとりどりの折りの束を取りした。
「もこちゃん、これ折れる?」
エリカの細くい指先が、赤い折りを鮮やかに折っていく。角と角を寸分の狂いもなくわせ、あっというに羽の体な鶴を折りげた。
「わあーっ! すごい! もこもやる!」
もこがを乗りして真似をし始める。その隣で、りこもまた、吸い寄せられるようにエリカの元を瞬きもせずに見つめていた。エリカはりこのに淡いピンクの折りを枚置き、そのさなに自分のをそっとねた。
「りこちゃんは、チューリップ折ってみようか。ここを、角におにするの」
エリカの指先から伝わる温もりに、りこの頬がほんのりと桜に染まる。
職の廊で徹に類を撥ねつけるあの女性と、今、子供たちに折りを教えているこの女性。どちらも桐エリカというのなのだ。そのな優しさに触れるたび、公平の胸の奥がく疼いた。
運ばれてきた料理をべ終えた頃、話題は来の学入学の準備のことになった。
「学用品、揃えるものがくて変ですね」公平がナプキンで元を拭いながら、何気なく零した。「提げ袋とか、履き入れとか……裁縫なんてやったことないから、全部百均か量販の既製品で済ませようかとってるんです」
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その言葉に、エリカがスッと顔をげた。
「ダメよ」
ピシャリとした、凛とした声だった。
「女の子なんだから。既製品もいいけれど、作りの温かいものを持たせてあげたいじゃない。……私、裁縫得なの。布を選んでくれたら、私が縫ってあげる」
「えっ……でも、そんなの桐さんに申し訳なさすぎます! お仕事だけでもお忙しいのに——」
「私がやりたいの」
エリカは公平の反論を遮るように、真っ直ぐにその瞳を見つめ返した。そこには、経理の仕事をしていると同じ、切の妥協を許さないい志が宿っていた。
「キラキラの布がいい!」もこがねるように叫んだ。「ピンクで、おさまがついてるやつ!」
「うん、もこちゃんのはキラキラのピンクね。任せて」
エリカが優しく微笑み、それから、俯いたまま残ったポテトを突いていたさな妹へと線を移した。
「りこちゃんは、どんなのがいい?」
りこは顔をげず、さな声で呟いた。
「……私は、今のでいい」
「今のでいい、じゃないの」
エリカは自分の体をさらにく傾け、りこと完全に線のさをわせた。決して急かさず、静かに、りこが言葉を紡ぎすのを待った。
秒、秒。ファミレスの喧騒ので、のだけにい静寂が流れた。
やがて、りこのさな唇が、微かに震えながらいた。
「……うさぎの、ししゅうが……ついてたら、いいな」
蚊の鳴くような、掠れた声だった。
しかし、それは紛れもなく、りこ自の志から絞りされた、初めての「おねだり」の言葉だった。
エリカの瞳が、ふわりと温かいで満たされた。
「うさぎの刺繍ね。真っで、くていおのうさぎさん、チクチク縫ってあげる。楽しみにしててね」
りこが、コクンとく頷いた。そのさな顔全体に、恥ずかしそうだが、隠しようのない至福の笑顔がパーッと広がった。
公平は、箸を握ったまま固まっていた。
引き取ってからの。どれだけ「何でも言っていいんだぞ」と語りかけても、「どれでもいい」「なんでもいい」としか答えなかったりこが。
に甘えることを頑なに拒んできたあの子が、今、エリカに向かって自分のをにしていた。
父親として、自分には決して引きすことのできなかった子供のの扉を、エリカはごく自然に、そのい慈のでノックしてけてみせたのだ。
胸に込みげる謝と。
しかし、その温もりをじればじるほど、公平の理性がたい警鐘を鳴らし始めていた。
エリカには、エリカのがある。独で、仕事でも責任あるを任され、週末には施設の子供たちの支援をしている。そんな尊いを歩んでいるに、血の繋がらない双子を抱えた自分が、これ以甘え、そのと優しさを奪い取ってしまっていいのだろうか。
ファミレスの窓ガラスに映る自分たちの姿を見つめながら、公平のには、温かいとともに、切なくい葛藤のが静かに差し込み始めていた。