"俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日" 第6話
保育園の秘密
その週の曜。
末の伝票処理が引き、公平が息を切らしながら保育園に駆け込んだのは、延保育のリミットぎりぎりの午分だった。
「すみません! 遅くなりました!」
玄関ホールにび込み、息をえながらクラスの部へ向かおうとした公平のが、庭に面した絵本コーナーのでピタリと止まった。
フロアの央、い製のベンチに、黒髪の女性が座っていた。
「もこちゃん、今もいっぱいったの?」
「うん! あのね、おでバッタ捕まえたんだよ! すっごいきいの!」
「わあ、すごいねえ。見せてほしかったな」
もこがその女性の膝のに乗り、満面の笑顔で両を広げて振り振りを交えている。女性はもこのさな背を優しく支え、声をてて楽しそうに笑っていた。
その元には、静かに寄り添うようにしてりこがっていた。いつもはに決して触れようとしないりこが、その女性のブラウスの裾を、さなでしっかりと、すまいとするように握りしめていた。
桐エリカだった。
オフィスのスーツ姿ではなく、柔らかなアイボリーのニットにロングスカート。髪をろでラフに束ねた彼女の表は、聖母のように穏やかで、温かかった。
「……え?」
公平の声が漏れた。
その声に反応して、もこが顔をげた。
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「あ! パパだ! 絵本のお姉さん、パパが来たよ!」
もこがエリカの膝からピョンとびり、公平の元へと駆け寄ってきた。
エリカがゆっくりとちがった。公平の姿を認めると、瞬だけ驚いたように目を見張ったが、すぐに悪戯が見つかった子供のように、照れくさそうに微笑んだ。
「伊吹君……お疲れ様」
「き、桐さん……? なんで、ここに……」
混乱する公平の背から、担任の田先が笑顔で歩み寄ってきた。
「あら、伊吹さんのお父さん、桐さんとおりいだったんですか?」
「え、あ、はい……職の同僚なんですが……」
「まあ、そうだったんですか!」田先はを打ってんだ。「桐さんにはね、もう以から、回、この園で夕方の絵本の読み聞かせボランティアをしていただいているんですよ」
「以……?」
「ええ。もこちゃんもりこちゃんも、桐さんのことが本当に好きでね。特にりこちゃんは、普段はとても見りで先にもあまり甘えてくれないのに、桐さんが来るだけは、ずっとおの裾を握ってさないんですのよ」
田先の言葉を聞きながら、公平は息を呑んだ。
りこが、のを掴む。
にをかず、常に慮がちにきてきたあの内気なりこが、自分以の誰かにそんな仕を見せるなど、像すらしたことがなかった。
エリカの元を見ると、りこは再びエリカのロングスカートの端を、ぎゅっと握りしめていた。
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エリカはそのさなにそっとを置き、おしそうに撫でている。
自分が仕事に追われ、必に々の活を回すことだけに汲々としていたその。
エリカはずっと、公平のらないところで、この子たちの孤独に寄り添い、温もりを与え続けてくれていたのだ。
「……桐さん」
公平が絞りすように声をかけると、エリカはし困ったように眉をげた。
「会社では……言えなくてごめんね。ボランティアのこと、あんまりにられたくなくて。それに、伊吹君のお子さんだってったのも、先週の曜が初めてだったから」
「いえ……そんな……お礼を言わなきゃいけないのは、俺の方です」
言葉が詰まった。謝と、驚きと、そして胸の奥から湧きがるいが入り混じり、界が滲みそうになった。
その張り詰めた沈黙を破ったのは、無邪気なもこの声だった。
「ねえ! お姉さんも緒にご飯べにこうよ! パパ、いいでしょ!?」
「えっ……こら、もこ、桐さんにもご都が——」
公平が慌てて制止しようとした。だが、エリカのスカートを握っていたりこが、顔をげ、潤んだ瞳でエリカをじっと見つめた。
声にはさない。しかし、その瞳は雄弁に「いっしょがいい」と訴えかけていた。
エリカがりこの線を受け止め、それから公平を見た。
試すような目ではなかった。ただ、壊れ物を切に包み込むような、慈に満ちた瞳だった。
「……伊吹君が迷惑じゃなければ、しだけ、ご緒してもいいかな?」
公平は、力く、く頷いた。
「……はい。ぜひ、お願いします」