"俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日" 第2話
だけの台所と遺された命
公平と妹のさやのがきく狂ったのは、今からののことだった。
当、学をて就職したばかりの歳だった公平と、学になったばかりの歳のさや。そのを残して、両親が乗った軽自が型トラックと正面衝突し、は揃って帰らぬとなった。
葬儀の線の匂いがまだ濃く残る、がらんとした実の台所。
親戚たちが財産分与や遺族の話を声でひそひそと交わし、やがて潮が引くようにっていった、残されたのは幼い妹と、途方に暮れる兄のだけだった。
夕を作らなければならなかった。公平はスーパーで買ってきた参と豚肉をに、慣れなつきで包丁を握っていた。まな板ので刻まれる参は、輪切りにしようとしたはずが揃いな半切りになり、さもバラバラだった。
「お兄ちゃん、形が全然揃ってないよ」
背から、慮がちなさな声がした。振り返ると、黒い喪からトレーナーに着替えたさやが、赤く腫らした目でっていた。
「……うるさいな。初めてなんだから仕方ないだろ。邪魔するなよ」
「邪魔じゃないよ。お伝いするの」
さやは袖をまくり、公平の隣に並んでさなで包丁を握り直した。
「こうやって、を猫のにして、からトントンって切るの。
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庭科で習ったんだから」
さやのリズミカルな包丁の音が、静まり返った台所に響き渡った。公平はそのさなのきを真似るように、隣で黙々と参を刻んだ。鍋の湯がコトコトと煮つ音だけが、の隙を埋めていく。
「……お母さんが作ってたカレーと、全然違う匂いがするね」
ぽつりと、さやが零した。泣き声ではなかった。ただ、世界から両親がいなくなってしまったという厳な事実を、必に自分のさな胸に収めようとする、震える声だった。
「当たりだろ。俺が作ってんだから。文句言うならうな」
「べるよ。お腹空いたもん」
そうやって、はきてきた。
親戚からの援助の申しを断り、公平はアルバイトと仕事を掛け持ちして、さやの学費を捻した。修学旅の費用も、しい制も、さやにだけは惨めないを絶対にさせたくなかった。
は流れ、さやの成式の朝。
実の狭い玄関で、鮮やかな朱の振袖にを包んださやが、恥ずかしそうに佇んでいた。
「お兄ちゃん……着付け、変じゃない?」
「ああ、丈夫だ。綺麗だよ」
公平がぶっきらぼうに答えると、さやは帯の結び目にそっとを添え、俯きながらさな声で尋ねた。
「……この振袖、いくらしたの? かったんでしょ?」
公平は答えず、ただ「いいから、写真館へってこい」と背を押した。
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さやは振り返り、公平の目を真っ直ぐに見つめた。瞳に涙をいっぱいに溜めて、く、くをげた。
「ありがとう、お兄ちゃん。私をここまで育ててくれて、本当にありがとう」
公平は顔を背けた。覚にも、界が涙で滲んで崩れそうになったからだ。両親をくしてから、辛いことばかりだったはずのので、違いなく番誇らしく、番幸福な瞬だった。
その、さやは職で会った男と結婚し、双子の女の子——もことりこを産した。
しかし、その幸福はくは続かなかった。双子がまだ歳の誕を迎える、夫は額の借を残して忽然と姿を消したのだ。
再び実くのアパートに戻ってきたさやを、公平は放っておけなかった。週末ごとに材を買い込んでアパートへ通い、オムツを替え、乳をべさせた。「また来てくれたの?」と笑うさやに、「くを通っただけだ」と素っ気なく返す。それがのしい常になっていた。
だが、運命はあまりにも残酷だった。
ののの。本の話が公平の職に入った。
『妹さんが、通勤途の交差点で折トラックに巻き込まれました——』
救急救命センターのICUに駆けつけた、さやは無数のチューブとモニターに繋がれ、蒼な顔で横たわっていた。担当医の「識の回復は絶望です」
という無質な宣告。
夜、図の波形が乱れ始めた頃、さやが瞬だけ、奇跡のように瞼をけた。焦点のわない瞳が、ベッドサイドでを握り締める公平の顔を捉えた。
酸素マスクのから、かすれた、消え入りそうな声が漏れた。
「お兄ちゃん……もこと、りこを……お願い……」
それが、妹の最期の言葉だった。握り返してきたさなの温もりが、すっと抜け落ち、モニターが本の平坦な直線を引いた。
葬儀の夜、親戚のが公平の肩にを置いた。
「公平、おの気持ちは分かるが、独の男が乳み子を育てるなんて能だ。養護施設に預けるのが、現実な判断だよ」
「……できません」
公平は拳を握り締め、親戚の顔を睨み返した。
「さやが、最に俺を頼ってくれたんです。俺が育てます。何があっても、俺のでをにします」
そのから、公平の「父親」としての過酷な闘いが始まった。
夜泣きが交互に続き、もできないまま迎える朝。をしたを抱えて夜救急へった嵐の夜。暗ので、泣き叫ぶ双子を両腕に抱きながら、公平自も声を殺して何度も泣いた。
それでも、を放すという選択肢は、公平ののに度たりとも浮かんだことはなかった。