"離婚翌日に6億円当選、実家で弟に「居場所はない」と拒絶された私" 第7話
売れなかった
「を売る?」
私はを疑った。
健太は頷いた。
「産にも来てもらった。体の査定もしてもらったよ」
理由を聞くまでもなく、今なら分かる気がした。古いは父と母にとって全ではない。になると廊はえ、浴との温度差もきい。急な階段、至るところにある段差、狭いトイレ。昔は族を守っていたが、を取った両親にとっては危険な所へ変わっている。
「駅にいバリアフリーのマンションへ移ろうとってた。売却代をにすれば、何とかなる計算だった」
「じゃあ、どうして……」
健太は父を見た。
父は険しい顔をした。
「俺が反対した」
「どうして?」
「先祖代々のだぞ。俺が男として受け継いだを、簡単にへ売れるか」
予通りの答えだった。
父はさらに声をめた。
「このでおたちを育てたんだ。ここを売るなんて、ご先祖様に顔向けできん」
母もそのは反対したらしい。
「私も、お父さんがかわいそうだとったのよ。それに所のに何を言われるか……」
健太が苦い顔で笑った。
「だから終わった。俺ももう説得するのが嫌になった」
「でもお父さん、このままむ方が危ないでしょう」
私が言うと、父は苛ったように顔を背けた。
「俺はまだ歩ける」
「すりをつける話も断ったんだって?」
父が黙った。
健太から聞いたところでは、以、廊と呂にすりを設置しようと業者を呼んだことがある。
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しかし父は「病扱いするな」とり、話を断ってしまったという。
その、私は違を覚えた。
本当にを守りたいだけなら、全にめるよう直すことまで拒む理由はない。
私は父の顔を見た。
「お父さん。本当に、このにみたいの?」
「何を言ってる」
「を守りたいんじゃないんじゃない?」
父の顔が変わった。
私は自分でも驚くほど静かな声で続けた。
「ここをたら、私たちに捨てられるとってるんじゃないの」
今の空気が固まった。
父のが膝ので止まった。
「馬鹿なことを言うな」
否定する声には、いつもの勢いがなかった。
「このがなくなったら、健太たちが自分たちだけで暮らして、お父さんとお母さんをどこかへ置いていくとってる。私も実がなくなったら、もう帰ってこないとってるんでしょう」
父は何も答えなかった。
私は初めて、父のさの奥にあるものが見えた気がした。
先祖のためでも、世体のためでもない。
老いていく恐怖。
を失えば、自分が族のからされるのではないかという恐怖。
「怖いなら、怖いって言っていいんだよ」
父の肩がわずかにいた。
「でも、捨てられるのが怖いからって、健太と由紀さんをこのに縛りつけるのは違う」
健太が私を見た。
私はその線を受け止めた。
父はい、黙っていた。
やがてさく言った。
「このがなくなったら……族がばらばらになる気がしたんだ」
それは父が初めてにした本音だった。
私はった。
族をつなぎ止めているのは、建物ではない。
むしろ、このにしがみついたことで、私たちはずっと互いを苦しめてきたのかもしれない。