"「息子が高熱なのに来い!」夫一家に185万円の請求書を押しつけられた私の正体" 第11話
託された命と漆黒の変貌
なマホガニーの扉が背で閉じた瞬、ペントハウスの喧騒は完全に遮断された。 静まり返った廊の突き当たり、般客のち入りが厳に禁じられたセキュリティエリアの扉を、私は暗証コードを入力して押しけた。
「美央様、お待ち申しげておりました」 部の央で々と最敬礼を捧げたのは、総支配のだった。 その背には、を纏ったホテル専属の児科医と、経験豊富な名の女性ベビーシッターが控えていた。 は私の腕のでぐったりとい息を吐く蓮の顔を目見るなり、すぐさま奥のプライベートスイートの扉をけ放った。
「ドクター、直ちに診察を」 「かしこまりました。美央様、どうぞこちらへ」 柔らかな照が灯る奥の控には、最級のオーガニックコットンでえられたベビーベッドが用されていた。 医師が際よく蓮の胸に聴診器を当て、額の体温を測る。 「突発な恵ですね。喉の腫れも軽度です。解の座薬と点滴処置をい、加湿されたこの部で静にさせれば、数では引きます。私が責任を持ってお預かりいたしますので、どうかごください」
医師の温かく確かな言葉に、張り詰めていた私の肩から微かに力が抜けた。 私はしいが子の額にそっと唇を寄せ、さな元で囁いた。
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「蓮、いい子ね。お母さん、すぐに戻るからね……」 ドアを閉め、部をる。 これで、私の唯の点は完全に守られた。 あの子に、この世で最も醜いの破滅の瞬を見せるわけにはいかない。する息子を守るためなら、私はんで絶対零度の鬼神となる。
総支配の央へ戻ると、が慇懃なつきで、ハンガーに掛けられた着のを差しした。 極のカシミアシルクで仕てられた、完全オーダーメイドの漆黒のパンツスーツ。胸元には、グループの絶対総帥のみがにつけることを許された、純プラチナ製のエクリプス・エンブレムがたいを放っていた。
私はに濡れてよれよれになったトレンチコートを脱ぎ捨て、その黒いジャケットに腕を通した。 ややかな裏が肌を滑り、全の神経が研ぎ澄まされていく。 鏡のにつ。 そこにはもう、夫の暴力な罵声に怯え、姑の理尽な無に涙を呑んでいたれな主婦の姿はなかった。 世界カ国の巨資本を牛り、言でを揺るがす、真の女帝の顔がそこにあった。
「さん。計を見なさい」 「はい。美央様がペントハウスをられてから、ちょうど分秒が経過いたしました」 「分ね。……サインを済ませましょう」
私はマホガニーのデスクに向かい、かれたジュラルミンケースから『械商事・株式取得および経営権掌握に関する最終決済承認』を引き寄せた。
漆黒のエボナイト万を抜き放ち、インクのみをじながら、署名欄の最段へペン先を滑らせた。
を削る乾いた音が響く。 き終えた文字は――【代表取締役最経営総帥 松岡美央】。
「配を完させなさい」 「御にございます」 が元のタブレット端末の暗号化キーをタップした。 その瞬、械商事の取締役会、メインバンク、そして京証券取引所へ向けて、株主の異と経営陣の即解任通が斉に同送信された。
エリート商社マンと威張り散らしていた夫の社会命が、わずか秒で完全に消滅した瞬だった。