"元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円" 第9話
解かれた暗号との空
翌朝、私は休暇を取り、支度をえて再びあの級宅の御ののにっていた。
をくぐると、には完璧に入れされていた広な本庭園のあちこちに雑がい茂り、池のは濁っていた。母の玄関ポーチには落ち葉が吹き溜まり、かつての富豪の栄華は見るもなく衰退していた。
通された広な。そこに座っていた義両親の姿に、私は息を呑んだ。
義父の厳郎はすっかり髪が増え、鋭かったは鈍く濁り、背はさく丸まっていた。義母のかよも目元の化粧が崩れ、震える指先で膝を抱えている。
「おたちが駆け落ちした……赤嶺の報復が始まった」
厳郎は力なく呟いた。
「婚約破棄に対する莫な違約の請求、融資の突然の引き揚げ、取引先からの契約解除……。が社の株価は暴落し、私は社の座を追われ、会社は赤嶺グループの傘に解体吸収された。すべて、あの狂気の娘・百が仕組んだことだ」
百は、自分を拒絶して逃したへの執着から、のである美そのものを兵糧攻めにし、完全に破滅へと追い込んでいたのだ。
「そして……あいつが、このに現れた」
かよが涙を浮かべながらをいた。
「私たちが留守にしているに、勝に鍵をけて入ってきたのよ。
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テーブルのに、『留守にすまない。私物をし理しに来た。赤嶺百にはくれぐれも気をつけてくれ』というを残して……。親を捨てて逃げた恩らずのくせに、今さら私たちを配するようなことをいて……!」
「さんが、ここに……!? 私物は、何を持っていったんですか!?」
私がを乗りすと、かよは首を横に振った。
「持っていったものなんてないわよ。階の自分の部の押し入れから、子どもの頃に読破した古い絵本のを引っ張りして、本棚に並べ替えただけ。……あの部は、あの子がをた当のまま鍵をかけて保してあるわ」
「その部を……見せてください!」
私の必の形相に気圧されたのか、厳郎はい腰をげ、階の突き当たりにある部へと案内した。
鍵をけて入ったの自。カーテンの閉め切られた暗い部の壁面に、きな製の本棚が聳えっていた。
その段。埃を被った棚の棚板のに、とりどりの児童や絵本が、自然な順序で冊ほど横列に並べられていた。
『おおかみとひきのこやぎ』 『たから島』 『るすばんのひみつ』 『のねずみのぼうけん』 『てぶくろをかいに』 『るすばんのひみつ(別巻)』 ……
「ただの古い絵本よ。何のもないわ」とかよが呟く。
だが、私の全の皮膚が粟った。
私とは、本で会った。
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ミステリーの暗号解読や伏線回収について、何百も語りってきたのだ。逃のが、命の危険を冒してまで実にち寄り、無に絵本を並べ替えるはずがない。
タイトルの文字を、から指先で追っていく。
お・た・る・の・て・る……。
「樽の、ホテル……!」
私の声がずった。
「お義父様、さんが子どもの頃、樽で定宿にしていたホテルはありませんか!?」
厳郎が目を見いた。「樽……? ああ、毎、末始に族で宿泊していた老舗の『グランドクラシック樽』か……!? まさか……!」
「番は……絵本の背表に貼られた図館の分類シールの数字です! の、の、……違いない、樽のホテルの所です!」
は、私に向けてメッセージを残していたのだ。
万が、私が義実を訪れるようなことがあれば、ミステリー好きの私なら必ずこの暗号に気づくはずだと信じて。
「くわ、樽へ!」
踵を返そうとした私の腕を、義母のかよが咄嗟に掴んだ。その瞳には、かつての酷なはなく、すがるような懇願のが宿っていた。
「ひな子さん……! を……あの子を助けてやってちょうだい! 私たちは違っていた……世体やのためにあの子を縛り付け、こんな化け物に狙われる原因を作ってしまった……! お願い、あの子を連れ戻して!」
泣き崩れる義母のを、私はく握り返した。
「約束します。必ず、さんを連れて帰ります」
千歳空港きの航空券を配し、私はのへとびった。