"元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円" 第5話
な防音扉の奥へ
の必の懇願を受け、私たちはすべてを捨てて逃げる決断をした。
私の両親だけには事を打ちけた。貧しいながらも温かい私の両親は、「娘をしてくれるなら、柄なんて関係ない。向こうの親御さんには、私たちがらぬぜぬを突き通してやる」と、笑って私たちの背を押してくれた。
は勤めていたを辞め、のベンチャー企業に転職。私たちは義実からで以れたこの町にさな古の軒を買い、だけのさな結婚式を挙げた。
翌には息子の蒼太がまれ、貧しくとも笑いの絶えない、絵に描いたような幸せな庭を築いていたはずだった。
……それなのに。
なぜ、あの男は変わってしまったのか。
なぜ、あんなにも激しくしてくれたはずの夫が、見らぬ女からの「今も素敵でした」というメッセージにを奪われ、妻と子をから追いすような血漢へと成りがってしまったのか。
ガタン、とが揺れ、終着駅のアナウンスが流れた。
懐かしい町の改札をると、駅の景はとほとんど変わっていなかった。駅通りの並を歩き、目の所へとをめる。
『若 本営業部』
元密着型の方であり、私たちがを買った際、活費決済用としてしく座を設した所だった。
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自ドアをくぐると、の効いた清潔なロビーが広がっていた。案内係の女性員が、穏やかな笑顔で駆け寄ってくる。
「いらっしゃいませ。本はどのようなご用件でしょうか?」
「あの……この座の残を確認して、全額引きして解約したいのですが」
私が差しした古い通帳とキャッシュカード、届印を受け取ると、員は「かしこまりました。こちらの番号札をお持ちになって、ソファーでお待ちください」と案内してくれた。
待ロビーの子に腰掛け、私はので計算していた。
が婚に約束した養育費は、毎万円。もし律儀に振り込まれていたとしても、分で百万円程度だろう。引越し費用や蒼太の学費のしにはなるが、それ以を期待するつもりはなかった。端を回収し、座をゼロにして解約する。それだけの続きのはずだった。
だが、分が経過しても、私の番号は呼ばれなかった。
窓の奥で、数の員が集まり、端末の画面を見つめながら何やら刻な表で話しっているのが見える。やがて、先ほど対応してくれた女性員が、で私の元へと歩み寄ってきた。
その表は、先ほどのマニュアル通りの笑顔とは変し、張った緊張のを帯びていた。
「失礼いたします……松浦ひな子様でいらっしゃいますね?」
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「はい、そうですが……何か問題でもありましたか?」
員は姿勢を正し、周囲に聞こえないよう声を潜めて言った。
「奥様、お伝えしたいことがございます。……恐れ入りますが、こちらのお席へご案内してもよろしいでしょうか」
「え? ただの解約続きなんですけど……」
戸惑う私を促し、員は般の窓ではなく、ロビーの最奥にあるな製の扉のへと導いた。
扉の横には、文字のプレートが掲げられている。
『特別応接(VIPサロン)』
ガチャリとかれた扉の向こうには、元がく沈み込むような毛のい絨毯が敷き詰められ、部の央には黒りするマホガニーの巨なローテーブルと、級な本革のソファーが鎮座していた。壁には名画の額縁が掲げられ、の喧騒は完全に遮断されている。
の油染みが染み付いたブラウスに、履き古したスニーカー姿の自分が、あまりにも違いで恐ろしくなった。
「あの、私、普通の普通預の解約に来ただけなんですけど……」
「どうぞ、お掛けになってお待ちください。今、責任者が参りますので」
された川製磁の級な湯呑みからちる玉の湯気を、私はただ直して見つめることしかできなかった。臓が鐘のように打つ。
体、何が起きているのか。
数分、静かなノックの音とともに、扉がいた。
入ってきたのは、ネームプレートに『融資課 』と記された代半ばの男性と、その背に控える、仕ての良すぎるつ揃えのスーツをに纏った、髪交じりの初老の男性だった。
初老の男性の胸元には、輝くのバッジと、決定な役職名が刻まれていた。
『支 内藤』
支自らが、々とをげながら入してきたのだ。
「松浦様、変らくお待たせいたしました。当支の内藤でございます。……本は、よくぞご労くださいました」
私の背筋を、氷のようなや汗が音もなく流れ落ちていった。