"元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円" 第1話
弾かれたプラスチック片
「これでやっと自由になれる。もう度と、俺のに現れるな」
え切った畳のリビングに、乾いた音が響いた。夫であった美(みわ・だいち)の親指から弾かれた枚のプラスチックカードが、ローテーブルのを滑り、私の膝元にコツンと当たって落ちる。
結婚当初、々の活費を管理するために作った若のキャッシュカードだった。表面には、私自の名とともに、かつて誇らしくっていた「美」の姓が型押しされている。
私は震える指先でそのカードを拾いげた。目のにつを見げても、そこに以のような優しさや温もりは欠片も残っていなかった。級ブランドのジャケットを羽織り、苛ちを隠そうともせずに腕計に目を落としている。私と息子を、まるでみ着いた厄介な害虫でも追い払うかのような、底えのする線だった。
「荷物は今に全部運びせよ。鍵はポストに入れておけばいいからな。俺はこれから区役所にって、婚届をしてくる。これで赤のだ」
満げに元を歪めると、は乱暴に革靴を踏み鳴らし、玄関のドアをけた。バタン、とい属音が響き、静寂が部を支配する。
私はそのにへたり込み、ののカードをじっと見つめた。
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駆け落ちまでして緒になり、で支えってきようと誓いった。その結末が、夫の倫と、この酷な追放劇だった。
『おとの活なんて、最初から退屈だったんだよ。俺はもっと華やかな世界できたいんだ。邪魔なんだよ、おも、子どもも』
数に彼が吐き捨てた罵詈雑言が、の奥で何度もリフレインした。の言う「華やかな世界」——それは、彼のスマートフォンに届いていたメッセージの主、「ももか」という女とのしい活をしていた。
「お母さん……?」
寝の襖が細くき、当歳だった息子の蒼太(そうた)がおずおずと顔を覗かせた。さなには、お気に入りのミステリーの絵本が握られている。父と母の異様な空気を敏に察しながらも、必に声をてまいと堪えていたのだろう。その澄んだ瞳を見た瞬、私の胸の奥で何かが張り裂けそうになった。
「ううん、何でもないのよ、蒼太。……さあ、お引越しの続きをしましょうね」
私は涙をの甲で乱暴に拭いり、ののカードを段ボールの底、古いアルバムや類を詰め込んだ番い所へと押し込んだ。
は言っていた。「この座に、毎慰謝料と養育費を振り込んでやるから切に取っておけ」と。だが、族を平気で踏みにじり、女のために妻と子をへ放りすような男のなど、円たりとも受け取りたくなかった。
そんなに頼れば、いつまでもあの男の呪縛から逃れられない気がしたのだ。
私は旧姓である「松浦」に戻り、実のあるへとを寄せた。
あれから、。
そのカードは度も暗証番号を押されることもなく、暗い箪笥の奥底で、私のい屈辱と絶望の記憶とともに封印され続けていた。