"「片親の貧乏人」と息子を叩いた社長、母の正体を知って絶句" 第1話
息子の頬に残った本の指
「祥太……その顔、どうしたの?」
玄関をけた息子を見た瞬、私はにしていた菜箸を落としかけた。歳になった祥太の頬が、痛々しいほど赤く腫れていたからだ。よく見れば、頬骨のあたりからのにかけて、本の指で叩かれたとしかえない跡がくっきり残っている。紺のジャケットもし乱れ、ネクタイも斜めにずれていた。
今は、祥太が結婚を考えている女性・若菜の実へ正式な挨拶にくだった。朝には品のシャツに袖を通し、鏡ので何度も髪をえていたのに、帰ってきた今の息子には朝の面がなかった。
「とにかくがって。やさないと」
私が保剤をタオルで包んで差しすと、祥太は力なく受け取った。しかし頬に当てようともせず、しばらく俯いたままだった。やがて喉の奥から絞りすような声で言った。
「母さん、ごめん。若菜との結婚、なくなった」
「……え?」
「向こうのお父さんに言われたんだ。『片親の貧乏を娘婿にするつもりはない』って」
胸の奥が気にたくなった。
祥太の父、つまり私の夫は、祥太が歳のに病気でくなっている。それ以来、私は女つで祥太を育てた。確かに楽な活ではなかった。しかし、息子に事をさせたことも、学を諦めさせたこともない。
広告
学まで通わせ、今では祥太自もIT企業でシステムエンジニアとして働いている。
それを、会ったことさえない男から「片親の貧乏」と括りにされたのだ。
「それで、その頬は?」
私が尋ねると、祥太はようやく保剤を頬へ当てた。
「俺が母さんを馬鹿にするなって言ったら、若菜のお父さんがちがって……」
「叩いたの?」
祥太はさく頷いた。
それだけでも分許せなかった。だが、続いて聞いた話はさらに酷かった。
に着いた当初、若菜の父親は笑顔で祥太を迎えたという。ところが父親がくなっているとるや、態度が変した。
「片親なのか? そんな話は聞いていない」
「母がで育ててくれました」
「それならなおさら無理だ。うちは会社を経営しているんだぞ。柄というものがある」
祥太は必に説した。母親は働いているし、自分も経済に自している。の財産を狙って若菜にづいたわけではない、と。
だが若菜の父親は聞くを持たなかった。
「どうせ母親だってした仕事じゃないんだろう。息子が社令嬢と結婚すれば老も泰だと考えているんじゃないのか?」
そこまで聞いた、私は無識に拳を握っていた。
「若菜さんは? 祥太を庇わなかったの?」
しばらく沈黙した、祥太は自嘲するように笑った。
「お父さんの言うことも分かる、だって」
広告
胸の奥で何かが切れた。
祥太は若菜を本気でしていた。だから、以からし気になる言があっても何度も許してきた。それなのに彼女は最の最で、祥太ではなく父親の側にったのだ。
「『私にはもっと釣りうがいるとうから、結婚はにして』って言われた」
それでも祥太が理由を聞こうと若菜へづいた瞬、父親が割って入り、平で頬を打った。
「度とうちの娘にづくな」
そして祥太を玄関のへ追いしたという。
話を終えた祥太の目から、滴だけ涙が落ちた。
私はわず息子の肩を抱いた。
「祥太。あなたが謝ることは何もないわ」
「でも……俺、若菜のこと信じてたんだ」
「信じたことは悪いことじゃない」
そう答えながら、私はテーブルののスマートフォンへ目を向けた。
祥太はまだらない。
若菜の父親が経営する品メーカーと、私のには浅くない繋がりがある。
もっと正確に言えば――彼の会社は、ある会社からきな仕事を受け続けている。
そして、その会社を父から引き継いだばかりのしい社が誰なのか、彼らはまだらない。
私は静かにスマートフォンをに取った。
「母さん、何するの?」
そうに尋ねる祥太に、私は首を振った。
「危ないことなんてしないわ。ただ、つ確認するだけ」
息子の頬に残った本の指の跡をもう度見た。
その瞬、迷いは完全に消えた。
ただし、私がここまでりを覚えたのは、今の来事だけが理由ではなかった。
若菜という女性には、以から何度も引っかかるところがあったのだ。
そしてその違は、数か、彼女が初めてこのへ挨拶に来たに始まっていた。