"大正十四年、卒業式で制服を脱いだ三十七人――母の署名に隠された秘密" 第19話
誰のものでもない
証を渡すがづき、式の扱いもようやく決まりかけていた。買い取り希望の着は各へ渡され、残る着は同窓会が学から保管所を借りて管理することになった。最初の費用には援会の承認を受けた積が充てられ、残額は桐との分割払いとなった。縫製所への未払い賃は、桐が受け取った代から優先して支払うことが確認された。
しかし、その約束をにくだけでは仕事は終わらなかった。の寸法を記し、どの袖に余裕があるか、どこを補修したか、着ずつ分かるようにする必がある。操と鶴子は着の袖裏へさな布札を縫い付け、貸しすたびに状態を確かめる台帳を作った。
作業の途、環が自分の式を持ってきた。「私のも、着目として貸ししに加えてほしい」と言う。操は驚いた。環の父は、娘のために質なを選んだことを誇りにっていた。環は言った。「このを事にう気持ちは変わらない。でも、来の誰かがれのに着られるなら、それも嬉しいとったの」。
操はすぐに受け取らなかった。「お父さんとは話したの?」と尋ねた。環は笑い、「今度はちゃんと話したわ。自分の物だから自分で決めろって言われた」と答えた。その言い方には、父からしだけしい自由を渡された娘のびがあった。
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だが貸ししの最初の、いがけないことが起きた。翌の卒業を控えるの女が、展示されたを試してみたいと申した。ところがを着た途端、周囲から「それは騒ぎを起こしたたちのだよ」と囁かれた。女は顔を赤くして、すぐに脱ごうとした。
操は止めなかった。代わりに傍へき、「あなたが着たくなかったら、着なくていい。着てみたいなら、誰のだったかより、自分にうかを見てほしい」と言った。女はを鏡に映し、「し袖がい」とさく答えた。
ちせがその袖を折り、「ここを直せば丈夫。誰かの古いじゃなくて、あなたが使うはあなたにうにしましょう」と言った。女は顔をげ、袖を確かめた。操はようやく、貸しし制度がのの数字ではなく、の子の選択として始まるのを見た。
その夕方、桐の番が裁縫所へ支払いの部を持参した。はるはの名をずつ読みげ、受け取った分を確かめた。すべての賃が揃ったわけではない。次の支払い期も残っている。それでも枝は封筒を握り、「子どもに靴を買って帰れる」と笑った。
ちせの順番になった、操はしれた所で待った。母は封筒のを数え、領収の欄に自分の名をいた。指先に残る針の傷が、を押さえるの甲に見えた。
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その姿を見て操は、自分たちが卒業式に何を着るかという話から、ずいぶんくまで来たのだとった。
しかし学からのらせは、まだつ残っていた。しい証交付の式では、は制について何も命じないという。その代わり、を代表して最に挨拶する徒を決めてほしい、と佐伯を通じて伝えてきた。
操は皆が自分を推すとっていた。だが鶴子がを挙げ、「私も、あの言えなかったことがある」と言った。操はし驚き、すぐ頷いた。今回だけは、誰かの声を自分が代わって話すことをしないと決めていた。
はるは封筒を配った、残りの支払額と次の約束のを黒板に記した。支払いが度あったからといって、すべて終わったようにわれたくなかったのだ。枝が黒板を見て、「次のにもらえる分で、の物の直しを頼もうかな」と冗談を言うと、女たちは笑った。その笑い声ので、はるは静かに付け加えた。「次の注文は、最初からこの黒板を見せて相談しましょう。働いたに値段を考えるのは、もうやめたいからね」。