"大正十四年、卒業式で制服を脱いだ三十七人――母の署名に隠された秘密" 第13話
袖本の値段
藤沢志乃が宮裁縫所へ来たのは、の最初の曜だった。志乃は代の半ば、梓女学をたに京で裁を学び、故郷へ戻って教をいていた。しいを好む方、裁の技法にも通じており、縫いの指先を見ただけで、そのの得な仕事が分かった。
はるは志乃を迎えると、完成した式を並べた。志乃は着のを取り、袖付けを指した。「この縫い目は、裏からほどけば丈を直せますね。学が毎使うなら、いい仕て方です」と言った。ちせはし照れたように笑った。誰かに自分の仕事を説してもらったのは久しぶりだった。
集まりは商の空き舗でくことになった。志乃はの主に頼み、古い机を借りた。操たちはを張り、式着の仕がるまでを順番に見せることにした。布を裁つ、襟をえる、釦をつける、丈を直す。それぞれがどこでを使うのか、縫い自の言葉で話す。
準備の途、若い枝がためらいながら言った。「私はで仕事の値段を言いたくない。く働いているとわれるのも嫌だし、の悪を言ってるとわれたくもない」。はるはうなずき、誰にも発言をいなかった。枝が望むなら作品を展示するだけでもいい、と話しった。
催しの当、町の女性たちや元徒たちが集まった。
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志乃は着のを持ちげ、説を始めた。「これは学の娘さんたちが着る装です。でも、今お見せしたいのは形だけではありません。ここに何のと何が入っているかです」。
見学者のが、円銭という値札を見て驚いた。「そんなにするなら、うちの子には無理だね」。別のは「何もかけて縫うならすぎるくらいでは」と言った。志乃はすぐに結論をさなかった。代がくて払えないと、く買われて困る縫いが、同じの周りにいることを伝えたかったからだ。
居も会に来ていた。初めは黙って展示を見ていたが、縫いの見積もりを眺めて「学がみっともないを買わせたわけではない」と言った。志乃は穏やかに答えた。「ええ、そのものは派です。だからこそ、誰が買えるかだけで卒業式を決めるのは勿体ないといます」。
その、枝がさな声で発言した。「この袖の縫い直し、私がしました。もとののが違って、度縫ったんです」。周囲が振り向く。枝は度呼吸して続けた。「度目の仕事には、まだおがついていません。誰も買わないになったら、その分はなかったことになりますか」。
居は答えられなかった。桐の主が慌てて「仕て直しの事はで確認する」と言ったが、志乃は女たちへ向かって「記録を残しておきましょう」
と告げた。誰かを吊しげるためではない。次に注文する、同じ失敗を繰り返さないためだった。
閉会、桐の主がはるへづいた。「縫い直しのは話しおう。だが、式そのものの買い取り先が決まらない限り、全部の支払いはできない」。はるはきっぱり返した。「では、その買い取り先を決めるにも、私らを入れてください」。
操は母の顔を見た。ちせはいつものように目たない所にいたが、背筋は伸びていた。娘たちの抗議から始まった話が、縫い自の言葉による話しいへ変わりつつある。操は初めて、自分がへるより、横にって聞くべきがあるのだと理解した。