"消えた十一丁の鍬" 第16話
鍛冶のを分ける
軸の受渡しが正式に決まったのは、がりになった翌だった。田は類を通持ってきて、余った属の引渡しと修理材としての代価を別々に確かめた。「妙な約束は残したくない。おたちもこれでだろう」と言う田に、徳兵はくをげた。かつてなら相のやり方が気に入らないと言って追い返していたかもしれない。今は、から誰が何を引き渡したのか分かることが事だとえた。
軸を鍛冶へ運ぶと、信は町の修理で学んだ方法で材質と傷みを確かめた。太い部分をそのまま鍬へ打ち延ばすことはできないが、必なさに切り、の入れ方を考えればの補に使える。徳兵は敷を寄せ、息子の描いた寸法を見た。昔なら「寸法なんぞ目で見ればりる」と言っただろう。しかし今回はに線を引き、印の位置を確かめてから槌を振った。
すみが炉のそばへ炭を運んできた。歳になった彼女は、母が働くにの煮炊きを伝い、鍛冶の掃除も覚えていた。信が炭を度にくべすぎようとすると、「昨もそれで煙ばかりたわ」と笑う。徳兵は妹が炉を見ていることに驚いたが、追い払わなかった。「のを見ておけ。るいだけならいいというものじゃない」
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。信は父が初めて妹にも仕事を教えていることに気づいた。
鍛冶にはお勢も入ってきた。彼女はを頼みに来た佐代たちへ作業を割り振ると、夫に言った。「今、のの田では皆が畦を直している。あんたたちも夜まで働けばいいというわけじゃない。疲れたで打った鉄は、また折れる」。徳兵は気まずそうに「分かっとる」と返した。信は父のの腫れがまだ引いていないことをいし、い槌は自分が持つと言った。
徳兵は黙って槌をそうとしたが、で持つさな槌なら使えると言い張った。信が「を悪くしたら、今度は鍬を丁も直せなくなる」と言うと、父は苦い顔をした。自分の体を守ることまで職の仕事だと考えたことは、これまでほとんどなかったのだ。すみは父のを見て、「お父さんが働けなくなったら、修理を待つがもっと困るよ」と言った。徳兵はため息をつき、ようやく作業台の子へ腰をろした。
は交代しながらした鉄を打った。何度もからし、えて固くなるに戻す。うまく形にならず削り直した部分もあったが、父は息子を鳴らず、理由を説した。「ここを細くしすぎると、板のさがか所へ集まる」。信は同じ所を図面で示し、父の経験と自分の計算がようやく同じ所を指すことを確かめた。
夕方、具がつ揃った。残りはつ。ところが徳兵がきな槌を持ち直した、から具が滑り落ち、敷へ鈍い音をてた。信が駆け寄ると、父の掌は赤く腫れ、指先が震えていた。「無理をするな。残りは俺がやる」。徳兵はしばらく黙った末、子へ座った。
すみがを持ってきて父のをやす、信はで最の具を打ち始めた。父はそばでをしそうになりながら、ぐっと堪えていた。ようやく息子が来がりを示すと、徳兵は形を確かめて言だけ言った。「よし」。その声はさかったが、信には今までのどんな叱責よりもかった。