"消えた十一丁の鍬" 第6話
の逃げ
本の広げた図面を囲み、たちはしばらく声を失っていた。のには本の溝があり、古い図面では増したを雑林の向こうのへ逃がすことになっていた。ところがそのにはから畑が作られている。杭が打たれたしい溝は、雑林を避けて佐代の田の端へつながっていた。槻は顔を赤くし、「のべる物をしでも増やすために、あのを畑にしたんだ」と弁した。
「畑を増やしたのは結構です。でも、うちの田をの捨てにするなんて聞いていません」。佐代は濡れた袋のまま、図面のへ指を置いた。槻は「まだ溝を掘ったわけじゃない」と答えたが、信はそれこそが問題だとった。杭だけ打って誰にも説していない計画は、作業が始まる直まで民にらされなかっただろう。
徳兵が作った具をにつければ、は確かにくようになる。しかしいをどちらへ流すか決めなければ、具をどんなに丈夫にしても守られると失うがまれる。信は初めて、父の仕事にも、自分の調べた農具の覧にもけないものがあると気づいた。「今はに取り付けない。先にのを決めます」。そう告げると、徳兵は自分の具を見つめ、「は待ってくれんぞ」と言った。
翌朝、父子との男たち数がのを歩いた。
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本は役の側溝図を持参したが、数に崩れた岸や、しく耕されたまでは記されていない。佐代は靴代わりの藁履きでついてきて、自分の田から見える堤の傷を教えた。の来るを番よくっているのは、そこで毎を抜いているだった。
途、信はの脇に古い杭を見つけた。に埋もれた部分には幾度もをかぶった跡があり、最打たれた杭とは向きが違う。佐代は「昔はの、あそこへが流れたと母に聞いた」と言った。伝えの話だけを根拠にはできないが、図に描かれた流れが実際のと違う理由を考える掛かりにはなる。本は記録を取るために杭の位置を測り、槻にもそので確かめてもらった。
信は古い流れを掘り戻す案をした。しく畑になったの部がぬかるむ恐れはあるが、佐代の稲を直接流すよりましだった。槻は腕を組んだ。「そこは軒のが今から使っている。の畑を壊す相談を、簡単にできるとうか」。佐代はそのでは何も言わなかった。自分が守られるために、別のの畑を沈めることが正しいともえないからだった。
昼になって、軒のうち軒の主である弥助が来た。彼は娘と暮らしで、やっといた畑から取れた芋をの料にするつもりだった。
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「のためと言うなら、最初に俺の畑を潰すのか」と弥助は声を震わせた。父を責めていた信は、別のの事に向きうと、やはり答えがすぐないことをいった。
徳兵は流れの底へり、を握り取った。「どっちのへ流すにしても、今の板は持たん。何ものだ」。信が具を確かめると、父はにさな声で「ここを守るために鍬を潰した。だが、流れを決める権利までわしにあるとったのは違いだった」と言った。初めて聞く父の謝罪に信は返事を失った。
帰り際、佐代が自分の田を見つめて言った。「ひと晩だけなら、を入れてもいいです。でも、誰も勝に決めないでください」。信はその言葉のさに気づいた。を入れる許しではなく、話しう席に自分を置いてほしいという願いだった。はまだの向こうにあり、決断を延ばせるは僅かだった。