"消えた十一丁の鍬" 第3話
壊れているのは刃だけか
朝、納の戸をけると、徳兵は既に鍬を種類ごとに並べていた。信は丁ずつ持ちげ、刃の欠け、柄の傷、具の緩みを記録した。丁のうち、すぐに使えるのは丁、修理して使えるのが丁、刃がく割れていて普通には直せない物が丁だった。父はその数字を見ても驚かなかった。修理能とした丁の札だけ、指で裏返した。
「その丁は、全部もう使えないのか」と父が聞いた。「今の姿のままでは無理だ。別の鉄を継ぐなら直せるかもしれないが、そんな材料はどこにもない」。信は答えながら、自分の言葉がし乱暴だったと気づいた。戦争が始まってから鋼の入は難しくなり、町の修理でもさな破片を捨てずに集めていた。直せないというのは、腕がないというではなく、今の条件では費用も材料もりないというだった。
母のお勢が湯呑みを運んでくると、父子はをつぐんだ。彼女は並んだ鍬を眺め、持ち主の札を読んだ。「佐代さんのは、も田の取りを伝うが見つからなくて困っていたわね。さんのは、腰を悪くしてからい柄でないと使えなくなった」。信はそこで初めて、本ごとの形が違うことにがあると気づいた。幅の狭い刃はのい田用で、柄の曲がった物は畑のを起こすに都がよい。
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徳兵は何も言わず、丁の鍬を元の持ち主へ返した。信は札を確かめて受領の印をもらうことにした。のが毎使う物だから、鍛冶の判断だけで倉に寝かせておくべきではない。午には子どもを連れた農婦がやってきて、修理した鍬を担いで帰った。「主がいた頃は物なんぞ見たこともなかったのにね」と、が笑った。その笑いには疲れが混じっていた。
信はの田を回り、作業に必な具を尋ねた。若い男のくがくへ働きにたり兵役に就いたりして、畦を直すのも肥桶を運ぶのも女性や寄りの役になっている。錆びた鍬本でも、持ちの腕力にわせておかなければと使えない。父が「畑のは量れん」と言ったが、ようやく体の覚になって分かった。
でも忘れられなかったのは、歳の娘と祖母ので畑へていただった。細い鍬の柄を握る女は、学から帰ると畦のを抜き、夕方には薪まで運ぶという。祖母が「昔はこんなに子どもへ働かせなかった」とこぼすと、娘は笑って「畑は待ってくれないから」と答えた。信はその笑顔が無理をしているように見え、帰りで何度もいした。具を使うのが誰かをらずに、だとか余り物だとか決めてはならない。
その方で、空きには壊れた鍋や鉄の輪がのように積まれていた。
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には使っていない鉄も確かにあるのだ。集めて続きに乗せれば、徳兵のへ無理に踏み込ませずに済むかもしれない。信は槻へ会いにき、回収候補と農具の修理予定を別々に示すことを提案した。
槻は類を読んだが、簡単には首を縦に振らなかった。「おの理屈は分かる。だが、予定といている丁は、いつ直る」。信は「で何とかします」と答えた。槻はの田を見つめた。「待てばになる。あのの畦をげ直さねば、うちのは隣のへを流してしまう」。の問題は、回収する鉄のさだけではなかった。
帰り、信は佐代の田で、彼女がで鍬を振るう姿を見た。くでが鳴り始めていた。鍬を守るためにの仕事を遅らせては、父も息子も同じ過ちを犯すのではないか。そう考えながら戻ると、鍛冶のには、まであったはずの折れた鍬の刃が枚、なくなっていた。