"高熱の娘を置き去りにした姉は、私の夫と不倫旅行中だった" 第19話
失われた名と、本当の父親
の陽が差し込む実のリビングで、私はノートパソコンをき、宅ワークの案件をこなしていた。 カタカタとよいキーボードの音に混ざって、庭からるい笑い声が聞こえてくる。
「ほーら、ちゃん! おが咲いてるよ、チューリップさんだよ!」 庭の芝ので、父が腰をかがめながら、よちよち歩きをするちゃんのを引いていた。 ちゃんは歳半になり、すっかり取りもしっかりして、を元気に駆け回るようになっていた。 「パパ……じーじ! おはな!」 舌らずな声で笑うちゃんの瞳は、ガラス玉のように澄み渡り、あのPICUでの淵を彷徨っていたことなど嘘のように、命の輝きに満ち溢れていた。
「美、お茶が入ったわよ」 母が淹れてくれた温かい緑茶の湯気を見つめながら、私は元の類に目を落とした。 それは、庭裁判所から届いた、特別養子縁組の申してに関する類だった。
「お母さん。……私、ちゃんを私の本当の子供として迎え入れたいとうの」 私の言葉に、母は目尻を潤ませて静かに頷いた。 「ええ、美。あなたなら、そう言うとっていたわ。あの子にとっての本当の母親は、最初からあなただったものね」
実の親である麻里奈は親権を喪失し、居所も定まらない。 だが、ちゃんには、命を懸けて自分を守り、してくれる族がここにいる。
妊に悩み、子供ができない自分を責め続けていた過の私。 しかし、神様は私に、ちゃんというかけがえのない宝物を与えてくれたのだ。血の繋がりや戸籍の枠組みを超えた、本物の親子の絆として。
そのの夕方、役所へ提する類をえ終えた、私のスマートフォンに、見らぬ番号から着信が入った。 恐らく、方をくらました秀か、あるいは麻里奈からの縋り付きの話だろう。 私は度も躊躇することなく、その着信を着信拒否のリストへと放り込み、通話履歴ごと完全に消した。
過の悪に、振り返るは秒たりともない。 私には今、守るべき未来があるのだから。