"高熱の娘を置き去りにした姉は、私の夫と不倫旅行中だった" 第8話
国からの能気な着信
画面に浮かびがる「お姉ちゃん」の文字。 私はく息を吸い込み、徹にを殺して通話ボタンをスワイプした。
「……もしもし」 『あ、美ぁー? 元気ー?』
受話器の向こうからび込んできたのは、障りなほど陽気な波の音と、楽しげなレゲエミュージックだった。 カチャカチャと鳴るグラスの音、そして背で聞こえる男のい笑い声――紛れもなく、私の夫・秀の声だった。
『あんた、全然LINE見てないでしょー? 今ね、ホテルのプライベートプールでシャンパンんでんの! 超ヤバいよ、国!』 「……そう。楽しそうね」 『でさ、連絡したのは、の夕方の便で成田に着くからさ! の面倒、ちゃんと見てくれてる? 夜泣きとかしてない?』
が子の容態を配する気など微もない、ただの業務連絡のような軽な問いかけ。 私は受話器をに押し当てたまま、PICUのガラス越しに、すやすやと眠るちゃんのさな横顔を見つめた。
「お姉ちゃん。……今、どこにいるの?」 『は? だからバリ島のリゾートホテルだって言ったじゃん。の夜にはそっちにを引き取りにくからさ、乳のストックとかちゃんと作っといてよね。あ、お産に免税の変なチョコレート買ってってあげるからさ!』
「その様子だと……携帯の着信や留守は、件も確認していないみたいね」
私のく抑えた声に、姉は怪訝そうにを鳴らした。 『はあ? バカンスに仕事の連絡なんか見るわけないでしょ。源切ってホテルのWi-Fiでインスタ見てるだけだし。何よ、言なら帰ってからにしてよね』
「お姉ちゃん。……今、葬儀の準備なのよ」
受話器の向こうの音楽が、ふっとのいたようにじられた。 『……は? 葬儀? 誰のよ。おじいちゃん? それとも所の?』
私は言葉をつひとつ、相の鼓膜に刻み付けるように、酷に言い放った。
「ちゃんよ。……あなたの娘の、ちゃん」