"泥の作業着と誇り" 第10話
のに咲く
残された種は・キロ。蒔ける面積はアール。
通常、根の種蒔きの限界はとされている。それを過ぎればの寒に晒され、根が太るに成が止まってしまう。
残された猶予は、わずか。
しかし、峰の畑は依然としていと砂に覆われていた。佐々ファームの全社員は平のハウスの復旧に忙殺されており、峰のしに割ける員はもいなかった。
その夜、は事務所のホワイトボードに作業程をき殴った、受話器を握りしめた。
話をかけた先は、沢品のだった。
「さん、夜分にすみません。佐々です。……お願いがあります。をげにきます」
翌朝、はスーツに靴を履いた姿で事務所に駆け込んできた。
「なんてげないでください! うちの役員会に掛けって、本社と営業所から志を集めました! さらに……」
がスマートフォンを掲げた。
「セントラルホテルの総料理が、厨の若を連れて駆けつけてくれるそうです! 駅ビルの青果担当バイヤーも来ます!」
さらに、事務所のドアがき、作業着を着たまゆとエリがび込んできた。
「みさ! 私たちも伝う! 休取ってきたから!」
「とも……仕事は……」
「いいから! あののお詫びじゃないよ。私たちが、この根をべたいから伝うの!」
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の朝。峰の崩落した畑に、総勢のが集結した。
をスコップで掻きし、嚢袋に詰めて運びす。流から流れ込んだ無数のを作業でつずつ拾い集めていく。料理も、員のエリも、主婦のまゆも、全員がだらけになりながら、無にをかした。
咲は毎、百個を超えるおにぎりを握り、鍋で豚汁を炊いて畑へ運んだ。
そして、播種限界の。
奇跡のように、アールの畑に美しい直線を描く畝が蘇った。
夕暮れ、はあの『万』の缶をけ、種を粒ずつ播種へと移した。
「さん、緒に押そう」
咲が横にち、播種の製のハンドルにを添えた。
が歩きすと、細い輪がを噛み、そのろに真っ直ぐな命の筋が引かれていった。見守っていたや料理、まゆとエリから、割れんばかりの拍が湧き起こった。
。
黒いのに、息を呑むような鮮やかな緑の双葉が、斉に顔をした。
季節は駆けで巡り、旬。
峰の畑は、青々としたきな葉で埋め尽くされていた。
が力いっぱい引き抜いたその根は、首がく、膨れで、所々に当たって股に曲がっていた。しかし、たいでを洗い流すと、まるで透き通るような磁の肌が現れた。
そのの夕方、セントラルホテルのレストランで、総料理が腕を振るった特別な皿が振るわれた。
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『峰根の呂吹き 佐々ファーム×川辺源蔵』
メニューの片隅にさく印刷されたその文字を見て、は目を潤ませながら、汁の染み渡った根をに運んだ。
「……源蔵さんのだ」
「うん。源蔵さんの根だね」
の隣には、笑顔で根を頬張るまゆとエリの姿があった。
がけた、佐々ファームは峰集落の耕作放棄をさらにヘクタール引き受け、農業を卒業したばかりの若者を正社員として迎え入れた。面接の際、無で何もアピールできなかったそのの、の染み込んだ分いを見て、が即決で採用を決めたのだ。
の終わり。峰のあいの『種畑』面に、にい淡いのが咲き乱れた。
根のだった。菜のよりもし儚く、が吹くたびに斉に同じ方向へ揺れる。
「綺麗ね……」
咲が呟くと、隣につが作業着の袖で汗を拭いながら微笑んだ。
「このを見られるのはな、種を繋ぐだけの特権なんだ」
のは、今もひび割れ、爪のには黒いがく染み込んでいる。
しかし咲はっている。そのにまみれたこそが、誰かの温かい卓を守り、途絶えかけた域の命を繋ぎ止めてきた、世界で最も尊く、美しいであることを。
「今もだらけになっちゃったけど、いいか?」
照れくさそうに笑う夫に、咲は満面の笑みで頷いた。
「ええ、もちろんよ。私の、世界自の夫なんだから」
のがり注ぐ段々畑に、の笑い声がどこまでもく、澄み渡るように響いていった。