"泥の作業着と誇り" 第8話
暗転の空と割れたハウス
同窓会の夜から半が過ぎた。峰集落の空は、抜けるようなれに恵まれていた。
朝の、朝に濡れる段々畑に、川辺源蔵の姿があった。歳の老は、いつもの麦わら子を被り、腰の曲がった体で黙々と畝の表面を均していた。
「が寝とる。いいだ」
源蔵の厳しい声がぶ。
「はい!」
との若い男性社員が、押しの播種(はしゅき)を押して、然とてられた畝のをゆっくりと歩いていく。咲は畑の脇に置かれた斗缶から、あの『峰根』の種袋を取りし、播種のさなホッパーへと補充する役目を担っていた。
キロの種。ヘクタールの畑に、粒の狂いもなく正確に落とされていく。
「浅い! センチだと言っとるだろ! それよりけりゃ芽がんし、浅けりゃ鳥にわれる!」
源蔵が折、畦から鋭い声を張りげる。そのたびにはち止まり、爪の先でを掘り返してさを確認し、をげて調を繰り返した。
昼、畑の隅にある柿のので、咲が握ってきたおにぎりを全員で頬張った。源蔵は無言でつのおにぎりを平らげると、くの空、なりう並みの向こうをじっと見つめた。
「……」
「はい」
「来週、来るぞ」
「台ですか? 予報ではまだ沖縄の遥かですが」
「を見りゃ分かる。
広告
あのの垂れ方との匂いは、直撃ののやつだ。今のうちに排を全部浚(さら)っておけ」
源蔵のの勘は、恐ろしいほどの正確さでした。
、型で非常にい台号は、急激にをへと変え、州部に照準をわせて急加速を始めた。
そのから、佐々ファームは戦と化した。は、寝るも惜しんで軽トラックをらせた。で吹きばされる危険のある育苗ハウスのビニールを剥がし、残す型ハウスには防ネットと鋼管パイプを増設して補した。軒の契約農を軒ずつ回り、「決して無理をして畑を見にかないでください」とをげて回った。
そして、の夜。
台が最接した、峰集落は漆黒の暴にみ込まれた。
横殴りの豪が窓ガラスを激しく叩きつけ、全体がく軋むような唸り声をげる。では線がピューピューと鳴をげ、折、のでがへし折れる鈍い轟音が響いた。
咲とは、台所のかりをつけたまま、もできずに朝を待った。テレビの画面には『峰区 砂災害警戒報発令』の文字が赤く滅し続けていた。
午半。がに凪ぎ、暗いの空がみ始めた。
「……くぞ」
が靴を履いた。咲も無言でレインコートを羽織り、助席にび乗った。
広告
町れの平にある自社ハウスへ向かう、には倒や千切れたトタン板が無数に散乱していた。
そして、メインのトマトハウスが界に入った瞬、咲は息を呑んだ。
「そんな……!」
棟並んでいた型鉄骨ハウスのうち、棟が無残に骨組みだけの残骸と化していた。化ビニールはズタズタに引き裂かれ、遥か彼方の防林の枝にい旗のように引っかかっている。残る棟も、猛烈な突によって支柱ごと飴細のようにぐにゃりとへし折れ、の青いトマトの株を押し潰していた。
数千万円を投じて備した設備が、わずか数ので燼に帰したのだ。
は軽トラックをり、ゆっくりと倒壊したハウスのに歩み寄った。へし折れた鉄パイプにそっと触れ、何も言わずにただ度、く息を吐きした。
「……さん」
「峰へくぞ」
の声はく、乾いていた。
「源蔵さんの畑へく。急ぐぞ」