"泥の作業着と誇り" 第7話
裸の友と分かちう籠
ロータリーの端にめてあった軽トラックに向かって歩いていると、背からアスファルトを激しく叩くペタペタという音が追いかけてきた。
振り返ると、まゆとエリのが、息を切らしてってきていた。
驚いたことに、まゆは履いていたハイヒールを両に持ち、ストッキングのまま裸で夜のを駆け抜けてきたのだ。エリもパンプスの踵を擦り減らしながら、必の形相で追いついてきた。
「みさ! 待って……!」
は軽トラックの荷台のでち止まり、肩で息をしながら、同に腰を直角に折ってをげた。
「ごめんなさい! 本当に……本当にごめんなさい!」
夜の駅ロータリーの片隅に、の泣き声が響いた。
咲はを止め、ち尽くした。何を言えばいいのか、胸がいっぱいで言葉が見つからなかった。
まゆが顔をげた。涙でアイラインが滲み、黒い筋が頬を伝っていた。
「の……私が転してきて誰とも話せなかった、みさは体育館の隅にいた私のところに来てくれた。誰も見ていないところで、当たりみたいに隣にいてくれた……。あのから、私はずっとみさのことを番の友達だとってたのに……!」
まゆの声が、激しい嗚咽に遮られた。
「なのに今、私……レナがみさの旦さんを馬鹿にした、怖くて……笑っちゃったの。
広告
みんなが笑ってるから、自分も笑わなきゃ浮いちゃうとって……! みさが傷ついてるのに、助けようともしなかった……! 最だよ、私……!」
エリもまた、唇を血が滲むほど噛み締めながら顔をげた。
「私もだよ。みさが『世界自の夫よ』って言い切った、の底からすごいとった。あんなにかっこいいき方、私にはできないって。でも……そうにしたら、次は自分がレナたちの標にされるんじゃないかって震えて、声がせなかったの。自分がけなくて、悔しくて……!」
はボロボロと涙を流し、夜のアスファルトを見つめていた。
は軽トラックの横にち、荷台の縁にきなを置いたまま、何も言わずに静かにその景を見守っていた。
咲は自らの胸の奥底を見つめた。
宴会で向けられたたい笑い声へのりは、もう綺麗に消えっていた。残っていたのは、痛ましいほどの切なさと、目のでハイヒールを脱ぎ捨ててってきたの友への、温かいの揺らぎだった。
「……私もね、怖かったよ」
咲の静かな声に、が恐る恐る顔をげた。
「みんなが笑ってる、消えてしまいたいってった。私だって、の教で誰かがいじめられていた、堂々とちがって庇えたことなんて度もなかったよ。体育館の隅にったのも、誰も見ていなかったからできただけ。
広告
だから……のことを責める資格なんて、私にはないの」
咲はに歩み寄り、それぞれのたくなったを握った。
「でもね、つだけ。夫のことだけは、恥ずかしいなんて嘘をつきたくなかったの。それだけは、絶対に譲れなかった。……って追いかけてきてくれて、ありがとう」
「みさ……!」
まゆがそのに泣き崩れ、エリがその背を支えながら声をげて泣いた。
その、背でガタリとい音が響いた。
が軽トラックの荷台から、プラスチックの集荷コンテナをつ、軽々と抱えろしていた。コンテナのには、今朝の収穫で形が歪だったり、し傷がついたりして荷のラインから弾かれた、艶やかな野菜が盛りに詰まっていた。
「あの……よかったら、これ持って帰ってください」
が器用そうにを掻きながら言った。
「えっ……? でも、これ売り物じゃ……」
「規格なんで、にはせません。に乗せっぱなしにしておくとには萎れちまうんで、べてくれた方が野菜も助かります」
は軽トラックの運転席からビニール袋を枚取りすと、きなで、濃いの米ナスをつずつ、太い胡瓜と真っ赤な完熟トマトをごろごろと詰め込んで、に差しした。
「臭い野菜ですけど、だけは胸を張れますから」
まゆは両でそのずっしりとい袋を受け取り、野菜のたいみをじながら、再び粒の涙をこぼした。
「ごめんなさい……私、あんなに酷いこと言ったのに……」
「笑いましたか?」
が真面目な顔で尋ねると、まゆはさく「はい……」と頷いた。
「そうですか。まあ、うちの野菜も見た目が悪いですから、お互い様です」
のその飄々とした返しに、まゆはわず涙を流しながら吹きした。エリも目を丸くした、温かい笑みをこぼした。
「それじゃ、気をつけて帰ってください。、怪しないように」
はそう言って助席のドアをけ、咲を優しく促した。
軽トラックのエンジンがく唸りをげ、夜のロータリーを滑りす。バックミラーを覗くと、灯の黄いので、野菜の袋を抱えたの友が、いつまでも、いつまでもくをげ続けていた。