"泥の作業着と誇り" 第4話
硝子張りの見ろし
同窓会の夜、咲はクローゼットのでち尽くしていた。
持ちのは、農作業用の洗いざらしのシャツか、冠婚葬祭用の黒いアンサンブルしかない。迷った末、昼休みに駅ビルの婦売りへり、落ち着いたネイビーのワンピースを着購入した。値札を見て度は躊躇したが、夫の顔にを塗りたくないというでい切ってレジへ持っていったのだ。
「買ったのか?」
帰宅したが、袋を見て言った。
「うん。ちょっとかったけど……たまにはね」
「似うとうぞ」
はそれ以詮索せず、帳をいた。
「は夕方に畑をがる。半にはセントラルホテルのに軽トラで迎えにく」
「そんなにくなくていいよ。終わるのは過ぎだとうから、駅でタクシー拾って帰るよ」
「いや、盆の曜は代もタクシーも捕まらん。畑の帰りに寄るから、乗って帰れ」
そう言って笑う夫に、咲はそれ以断ることができなかった。
そして迎えたの夕暮れ。
セントラルホテルの宴会には、すでに懐かしい顔ぶれが集まっていた。受付で幹事の拓也から名札を受け取り、咲は会の隅のテーブルへとんだ。代に親しかったまゆとエリがを振って駆け寄ってきてくれた。
「みさ! 全然変わってない! 肌も綺麗だし!」
広告
「そんなことないよ、毎焼け止め塗るのに必なんだから」
まゆは児の母になり、エリは元の信用庫で支の窓責任者を務めているという。のない昔話にを咲かせ、担任だった先からのが代読されたには、で目を押さえった。この穏やかながずっと続いてくれればいいと、咲はから願っていた。
しかし、宴が盤に差し掛かった頃、会の空気が変した。
京から駆けつけたという神崎レナの登だった。真っ赤なシルクのワンピースに、ダイヤが散りばめられたカルティエの腕計。取り巻きを引き連れてテーブルを練り歩き、同級たちの況を聞いては、骨な値踏みを繰り返していく。
「へえ、〇〇君は役所? 公務員が番堅いわよねえ」「〇〇さんは元ののライン管理? ふーん、夜勤とかあるんだ、変ね」
相の収や社会位によって、あからさまに声のトーンと笑顔の角度を変えるレナの振るいは、代と何つ変わっていなかった。
そして、その線が、ついに壁際にいた咲を捉えた。
「あら、みさじゃない! 久しぶりねえ!」
ワイングラスを揺らしながら歩み寄ってきたレナは、咲のネイビーのワンピースを品定めするようにからまで眺め回した。
「結婚したんだって? 名札に佐々っていてある。
広告
旦さん、何してるなの? どこにお勤め?」
まゆとエリが、横で息を呑むのが分かった。咲は逃げも隠しもせず、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「農だよ。夫と緒に、野菜を作ってるの」
その瞬、レナの完璧にえられた眉がねがり、元に品なが浮かんだ。
「……は? 農? あの、まみれになっていじりする、百姓の農?」
「うん。トマトや根を育ててるの」
レナはわざとらしく周囲を見渡し、甲い笑い声を響かせた。
「嘘でしょ!? ねえ、みんな聞いた!? みさの旦さん、農なんだって!」
宴会のざわめきが、潮が引くように収まっていった。を超える同級たちの線が、斉に咲へと突き刺さる。
「臭い旦で恥ずかしくないの!? 毎だらけで帰ってきて、汗臭いを洗うんでしょ? 信じられない! 私なら絶対に無理! 惨めすぎて親戚にも紹介できないわ!」
悪に満ちた言葉が、ナイフのように咲の胸に突き刺さる。周囲の同級たちからも、失笑と憐憫の混ざった線が向けられた。
そのだった。
耐えかねた咲のから、凛とした言が放たれた。
「それでも、私の世界自の夫よ」
会がを打ったように静まり返り、次の瞬、レナがをつけたような哄笑とともに、涛のような嘲笑の渦が咲をみ込んだ。
居たたまれなくなった咲は、静かに宴会を抜けし、階のエレベーターホールへと逃げした。