"赤ペンで消した夫" 第20話
本物の言葉との対話
子は欅の文卓に向かい、しい原稿『のの呼吸』を読み始めた。 作者は、方ので働きながら夜に原稿用に向かい続けたという、歳の青だった。
誤字はい。原稿用の使い方も初歩なミスが目つ。 だが、からちってくる量は、朝倉希のあのっぺらい原稿とは比較にならないほどく、いものだった。 の理尽、貧困ので見げる空の美しさ、者への器用な。 それは、自らの肉体を削り、魂の血をインクにして絞りした、紛れもない「本物の言葉」だった。
子のがく。 握られているのは、あの赤い万だ。 だが今度の赤字は、断罪のための取り消し線ではない。 作者が伝えようとしている真実の輪郭をより鮮に浮かびがらせるための、慈に満ちた標だった。
『この助を「に」から「へと」へ変更することで、主公の未来への決がより力く響きます』 『この比喩は素らしい。の段落をし理し、このが読者の網膜に焼き付くよう、空を空けることを提案します』
子の赤字が入るごとに、原稿は荒削りな鉱から、を放つ宝へと変貌を遂げていく。 これこそが、子がかつてし、目指していた「本物の編集・正」の姿だった。 の言葉を盗むのではなく、の魂に寄り添い、その輝きを最限に引きすこと。
作業に没するうちに、窓のは夕暮れに染まり、やがて群青の夜が訪れていた。
ふと顔をげた子は、ペンを置き、く息を吸い込んだ。 肩の凝りすらよい。 自らの技術が、誰かの真実の言葉を世に送りすために使われているという充実。 子の瞳は、かつてないほど澄み渡り、希望のに満ち溢れていた。