"赤ペンで消した夫" 第18話
固ゆで卵の朝
翌朝。午半。 障子越しに差し込む柔らかな朝ので、子は自然と目を覚ました。 かつてのように、也の起にわせて目覚ましに怯えることもない。 自分の体が欲するタイミングで目覚める、至福の朝だった。
さな台所にち、のガスコンロにを点ける。 さなホーロー鍋にを張り、蔵庫から卵をつ取りした。 子は鍋のに卵を沈めると、タイマーを【分】にセットした。
也は、半熟の柔らかい卵しかにしない男だった。 黄がトロリと流れる、茹で分半の卵。 そして彼は、子も当然同じ好みなのだと信じ込み、の度として「君はどんな固さが好きなんだい?」と尋ねることはなかった。 子が本当は、も黄もしっかりとが通り、ホクホクとした素朴なを持つ「固ゆで卵」をしていることなど、ろうともしなかったのだ。
ピピピッ、とタイマーが鳴る。 子は卵を取りし、に晒してから、コツコツと気よい音をてて殻を剥いた。 つるりと剥けたい卵をつに割ると、から黄のしっかりとした黄が現れる。
急須で丁寧に淹れた蒸しのい緑茶。 塩をほんのしだけ振った、々の固ゆで卵。 そして、所の老舗ベーカリーで買ってきた、素朴な切りのトースト。
文卓のに座り、子は固ゆで卵をべた。 しっかりとした黄の濃なが、いっぱいに広がる。 温かい緑茶をすすると、喉を通り抜けるさが、体の芯をじんわりと解きほぐしていった。
「……美しい」 自然と、元に笑みがこぼれた。 これは、也の好みでも、誰かのための妥協でもない。 子自が、自らの志で選んだ、彼女だけの「本当の」だった。 のの脇役をり、自らのの主権を取り戻したことの証が、このさな朝の皿のに確かにしていた。