みかん小説
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"赤ペンで消した夫" 第8話

箱根の霊と、赤ペンの処刑

也がの自宅で、子は朝倉希のゲラ刷りに向かいっていた。 机のには、子のによって真っ赤に染めげられた原稿用が積みなっている。 だが、その赤字は、通常の正とは全く異なる性質のものだった。

子は、也が代したとわれる箇所――あの独特の読点の打ち方、平仮名のき、そして端正すぎる景描写のすべてに、太い赤のサインペンで無慈な取り消し線を引いていった。 そして、その余に、正者としての酷な指摘をき込んでいく。

『この景描写は、文脈から著しく浮いており、主公の代設定と致しない。代男性特の古臭い美識がにつくため、削除を推奨』 『「このままに呑まれて……」という台は、の陳腐なトレンディドラマの焼き直しに過ぎず、現代の純説としてのリアリティを完全に損ねている。全面改稿のこと』 『語彙の選択に、特定の者(※注・黒沢也)の文体模倣が顕著に見られ、作者自のオリジナリティが皆無。剽窃の疑いを招く恐れあり』

枚、また枚。 也が血を注ぎ、自らの果たせなかった文学野をの名で咲かせようとした文章の残骸が、子の赤いインクによって容赦なく解体されていく。 それは、言葉のプロフェッショナルによる、公処刑の準備だった。

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目の夜、也から度だけ話がかかってきた。 受話器の向こうからは、級ホテルのラウンジ特の静かなピアノジャズの調べと、かすかなシャンパングラスの触れう音が聞こえていた。 『子、原稿の正はんでいるかい?』 「ええ、とても順調よ。あなたの息がかかった素らしい文章ばかりで、赤ペンを入れるが止まらないわ」 『そうか! やはり君に頼んで正解だったよ。希ちゃんもね、君の正をから頼りにしていると言っている。あとで、誰もが息を呑む傑作を完成させて帰るから、楽しみに待っていてくれ』 「ええ。誰もが息を呑む結末を、から楽しみにしているわ」

也は、妻の言葉の裏に潜む酷なのに、何つ気づいていなかった。 彼は自らを、を導く全能のピグマリオンであり、庭を完璧に統御する支配者だと信じ込んでいた。 その傲さこそが、自らの元に巨な落とし穴を掘り続けていることにも気づかずに。

目、法務部の相楽から、暗号化された極秘メールが子宛てに届いた。 添付されていたのは、軽井沢のホテルにおける潜入調査の報告だった。 法務部の調査員が撮した鮮なカラー写真。 ホテルのメインダイニングで、昼から最級のワインを空け、腕を絡ませて笑いう也と希。

ホテルのエステサロンを会社のコーポレートカードで決済する伝票の控え。 そして、が同じスイートルームのベッドへと消えていく決定な瞬の連続写真。

『黒沢子様。証拠は完全に保全されました。取締役会ならびに倫理委員会は、目の午をもって、黒沢也編集の職務止処分、ならびに朝倉希の賞エントリーの即取消を全会致で決定いたしました。目の夜、彼が帰宅するタイミングにわせて、事部および法務部からの公式通達が彼の個端末へ送信されます』

画面を閉じた子は、く、静かに息を吐きした。 は、混じりのたいがり始めていた。 完璧に組みげられたドミノ倒しの最のピースが、今まさに指先で弾かれようとしていた。

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