"赤ペンで消した夫" 第7話
のと、静かなる包囲網
「――黒沢子さんですね。監査の相楽(さがら)です。……お話でおっしゃった内容は、すべて事実ですか」 受話器から聞こえる声は、く、かった。 版の法務部監査は、取締役会直属の独関であり、役員の正やなコンプライアンス違反を専に調査する、社内警察とも言うべき部署だ。
「ええ。単なる推測や論ではありません。現の賞応募原稿における代ログ、サーバーのアクセス履歴、さらにはの未発表原稿との完全致を示すテキスト比較データを、すべて元に確保しています」 子の声には、微の震えもなかった。 「相楽。也さんはから、『作の缶詰宿』と称して、朝倉希と共に軽井沢の会員制リゾートホテルへ向かいます。経費申請の名目は『緊急執指導に伴う宿泊費および取材費』となっているはずです」
受話器の向こうで、キーボードを叩く乾いた音が響いた。 数秒の沈黙の、相楽の険しい吐息が漏れた。 「……確認しました。確かに、本付で編集決裁による仮払として、万円の経理申請がています。宿泊先は軽井沢のグランヴィラ。部ではなく、最級のスイートルームでの予約ですね」
「その領収と滞の実態も、監査対象に含めてください。
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……それからもうつ」 子は元のノートパソコンの画面を見つめた。 「也さんが過半にわたり、交際費として処理してきた級料亭や寿司の領収。その同席者リストに記載されている御所作の先方に、法務部から直接、事実確認の連絡を入れていただけますか。実際にはそのに作はおらず、朝倉希との密会に使われていた証拠のテキストログがします」
相楽は、息を呑んだ。 「……もしそれが事実なら、業務横領および背任、さらには会社に対するな背信為です。編集更迭どころか、懲戒解雇に相当する事案だ。だが、子さん……彼は、あなたの夫だ。本当に、続きをめてよろしいのですか」
「私は、版の正者です」 子は背筋を真っ直ぐに伸ばし、徹に言い放った。 「文字の誤りを正し、虚偽を排除するのが私の仕事です。が社の板である文学賞を穢し、読者を欺くな瑕疵を、見過ごすわけにはまいりません」
翌朝、也はきな旅鞄を抱え、気揚々とをてった。 「子、留守にするが、戸締りには気をつけてくれ。帰ったら、美しいものでもべにこう」 「ええ、お仕事頑張ってね。完璧な原稿が仕がるのを、楽しみにしているわ」 完璧な妻の笑みで見送る子の背で、たいの朝が、元を静かに包み込んでいた。
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也がを空けた。 それは子にとって、を完全に脱し、復讐の盤面をミリ単位でえるための神聖なとなった。 彼女はまず、区役所へ向かい、自らの戸籍謄本と印鑑登録証を取得した。 続いて、自宅マンションの権利関係を確認する。 現の広尾のマンションは、結婚に子が独代に貯めていた遺産相続分の資をとして半分以拠しており、名義も夫婦共となっていた。 子は敏腕でられる女性弁護士・柴田の事務所を訪れ、婚協議の作成と、財産分与における也の持ち分差し押さえの続きを委託した。
「子さん、証拠は完璧です」 提されたログデータと領収の複写を確認した柴田弁護士は、嘆のため息をついた。 「貞為の証拠として、ホテルの予約確認と、社内サーバーに残された私な通信ログ。さらに会社資の正流用という、彼が社会に抗弁能な急所を完全に押さえている。慰謝料請求、マンションの単独名義への変更、すべてこちらの求通りに通ります」
「ありがとうございます、柴田先。ただ、続きの始は、彼が帰宅する『目の夜』にわせてください。番い所から、突き落としてやりたいのです」
子の瞳に宿る絶対零度のに、百戦錬磨の柴田弁護士すら、微かに背筋を正したのだった。