"産後七日目の決別" 第4話
分の父親
直からの『落ち着いたら帰ってくればいい』というメッセージを見つめながら、真帆の指先は迷うことなく画面をタップした。
『落ち着いてるよ。』
送信してわずか分、元の端末が震えた。
『つむぎには父親が必だ。』
真帆は乾いた笑いを漏らした。産ケア施設で「産んだが育てればいい」と言い放ち、育児の練習から逃げした男が、今さらどの面をげて「父親の権利」を主張しているのか。
『そう。だから父親になってって言ったんだよ。』
それを送ると、度と返信は来なかった。
実へ避難してから週が過ぎ、つむぎは週を迎えていた。母の献な料理と父のサポートのおかげで、真帆の傷の痛みは徐々にらぎ、しずつのを普通に歩けるようになっていた。
真帆は直に対して、決してな絶縁状を叩きつけるような真似はしなかった。
どれほど勝な男であっても、つむぎにとって血の繋がった父親であることは紛れもない事実だ。もし直が自らの愚かさを悔い改め、本気で父親になる覚悟を示すのであれば、娘から父親を奪う権利は自分にはないと考えていた。
曜、真帆は直にいメッセージを送った。
『曜のなら、つむぎに会えます。来ますか?』
『く。』
相変わらずの文だった。
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ちょうど、実のインターホンが鳴った。玄関で迎えた真帆に対し、直は「お邪魔します」と、まるでのにち寄ったかのような余所余所しい挨拶をした。にはコンビニのビニール袋つげていない。
両親は気を利かせ、直が娘とゆっくり過ごせるように奥の居へがってくれた。
座敷に通された直は、座布団のに寝かされているつむぎを、ったまま見ろした。
「なんか……しきくなったか」
「もうすぐヶだからね。抱っこする?」
真帆が尋ねると、直は当然のように胸を張った。
「当たりだろ。俺は父親なんだから」
真帆は慎につむぎを抱きげ、まだ座っていない首をしっかりと支えるよう指示しながら、直の腕のへと渡した。
直はあぐらをかいた膝ので、ぎこちないつきでつむぎを抱えた。
最初の数秒、つむぎはパチパチと瞬きをしながら、見慣れない男の顔を議そうに見つめていた。直も「お、いな」と調子よく笑い、娘の頬を差し指でつついた。
だが、平なは瞬で崩壊した。
ふいに、つむぎのさな顔がくしゃりと歪んだ。
「ふぎゃああっ! うわああん!」
突然の激しい泣き声が、畳に響き渡った。
直の顔から、瞬に余裕が消えった。
「うわっ、なんだよ急に! おい真帆、泣いてるぞ! く取ってくれ!」
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直はまるで、ので爆発しそうな危険物を押し付けるように、両腕を突きしてつむぎを真帆へ差ししてきた。
真帆は歩、ろへがった。腕を組み、静かに夫を見据える。
「そのまま、あやしてあげて」
「はあ!? 泣いてるんだから母親のおが抱いた方がいいに決まってるだろ!」
「今、あなたがつむぎと向きうでしょう。って、優しく揺らしてあげて。背をトントンして」
直は舌打ちをし、苛ちをわにしながらちがった。しかし、その抱き方はく、力任せだった。腕ので悶えするつむぎの恐怖を煽るように、ドシンドシンと荒っぽく畳を踏み鳴らす。
「ほら、泣き止まないぞ! 赤ちゃんは母親の匂いが分かるんだよ! 俺じゃ無理なんだって!」
「赤ちゃんは誰の腕のでも泣くわよ。しは根気よく声をかけてあげて」
計の秒針が、酷にを刻んでいく。
分。分。つむぎの泣き声はさらに激しさを増し、顔は真っ赤に鬱血していく。
直の額に、じっとりと脂汗が滲みた。
そして、抱っこを始めてからきっかり分が経過しただった。
「チッ! もう無理だ! うるさくて敵わん!」
直はつむぎを乱暴に真帆の腕のへ押し付けた。
真帆がしっかりと受け止め、胸元に引き寄せて優しく背をさすると、つむぎの泣き声は次第にさくなり、数分には微かなしゃくり声を残して落ち着きを取り戻した。
それを見た直は、鬼の首を取ったかのように勝ち誇った顔で言い放った。
「ほら見ろ! やっぱり母親じゃないとダメなんじゃないか! 産んだが育てればいいって言った俺の言葉、正しかっただろ!」
真帆ので、何かが完全にえ切った。
努力の放棄を、もっともらしい理屈で正当化する浅ましさ。わずか分、が子の泣き声に耐えることすらできない男が、どので「父親」を名乗るのか。
真帆はえ切った線で直を見ろし、告げた。
「今の面会は、これで終わりです。お引き取りください」
「はあ!? まだ来てから分も経ってないぞ!」
「たった分泣かれただけで娘を放すようなに、これ以任せることはできません。お帰りください」
「なんだその態度は! せっかくの休に、わざわざ会いに来てやった父親に向かって!」
「わざわざ会いに来る所じゃないわ。ここは、あなたが親になるための所よ。それを放棄したのはあなたです」
真帆が歩も引かずに見つめ返すと、直は悔しそうに顔を歪め、荷物をひったくって玄関へと向かった。
バタン!
激しい音をてて玄関の引き戸が閉まった。
その背を見送りながら、真帆は確信していた。
この男は、父親になることから逃げしたのだ。そして、その逃避を隠すために、次は必ず周囲を巻き込んだ「卑劣な罠」
を仕掛けてくるはずだと。