"義両親をこき使う伯父に、嫁の私が反撃した日" 第3話
「やり返してもいい?」
宴もたけなわとなり、座敷のあちこちで酔客の笑い声が濁ってきた頃、仲居さんが部の隅にち、通の細い黒塗りの伝票入れを幹事である国男伯父さんの元へ運んできた。 部のざわめきがし引き、会計の空気が漂い始める。
各族の父親たちが財布を取りそうと懐にを入れた、その瞬だった。 国男伯父さんは伝票の計額をチラリと瞥するなり、ニヤリと卑た笑みを浮かべ、机の末席に座っていた義父へ向かって、部に響き渡る声で言い放った。
「おい、隆!」
義父の肩がビクッとねた。 「な、なんだい、兄貴?」
「おんとこ、めにしとけよ!」
冗談めかした調ではなかった。 な、逆らうことを許さない支配者の命令だった。 私はを疑った。 今の料理は、全員が同じ千円の会席コースを頼んでいる。 酒の消費量に至っては、級な吟醸酒を次々と注文して浴びるようにんでいたのは国男伯父さんとその息子たちだ。義父母はを運転しないにもかかわらず、慮して最初の杯のビール以はたいお茶しかにしていない。 それなのに、なぜ義父が額の支払いを命じられなければならないのか。
義父の顔から、微かに残っていた気がスッと消えた。 しかし、反論する気配は微もなかった。
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「あ……ああ、分かっているよ、兄貴」
そう答えて内ポケットから取りした義父の革財布は、隅が擦り切れ、使い込まれてペシャンコになった古いものだった。 震える指先で、千円札と万円札を数えようとする義父。 その隣で、義母の典子さんは両を膝ので固く握りしめ、顔を伏せて耐えている。 その目元に、今にも零れ落ちそうな涙の膜が張っているのを、私ははっきりと見た。
プチン、と。 私ので、理性を繋ぎ止めていた最の細い糸が、完全に千切れんだ。
これ以、この優しいを、理尽の贄にさせてたまるか。 私は隣に座る夫の腕を、痛いほどく掴んだ。 健太が驚いて私を見る。
私は健太の元へ顔を寄せ、極めてく、だが鋼のようにい声で囁いた。
「健太」 「……え?」 「私、やり返してもいい?」
健太の目が丸くなった。 彼は私の瞳の奥に宿る、決して引きがらない絶対零度のりを見つめた。 そして――健太は、瞬だけ驚いた表を見せた、ふっと元を緩めて笑ったのだ。 自らの甲斐なさを振り払うように、力く頷いて言った。
「頼んだぞ!」
夫の許はりた。 もう、慮する理由はどこにもない。 義父が震えるで万円札を卓へ置こうとした、まさにその瞬だった。
私は背筋をピンと伸ばし、座敷の空気を切り裂くような、澄み切った声を響かせた。
「どうしてですか?」