"4億円の私の家を義弟に譲る義母――夫の一言で凍りついた古希祝い" 第14話
本の器を捨てる
引っ越しの最の週末、孝志と公平は朝からへ向かった。
私は同しなかったが、夜戻ってきた孝志から、そのの話を聞いた。
「母さん、今は着物を全部してたよ」
義母は親戚の結婚式や法事で着ていた価な着物を何枚も持っていた。には「黒田の男の母として恥ずかしくない物を」とわざわざ仕てたものもある。
しいLDKにはきな桐箪笥を置く余裕はない。
公平が「本当に着るものだけ残したら」と提案すると、義母は最初こそ嫌になったが、やがて枚だけを選び、残りは専業者へ引き取ってもらうことにした。
次にをつけたのが、量の来客用器だった。
「これ、お父さんが買った皿なのよ」
義母は枚ずつに取り、いを話したという。
お盆に叔父が来た。
孝志の結婚、親族を招いた。
義父の法事。
の記憶が、皿枚枚に張りついていた。
公平は急かさなかった。
孝志も「捨てろ」とは言わなかった。
はただ、義母が自分で決めるのを待った。
い沈黙の、義母は最もきな皿を箱へ戻した。
「もう、こんなにを呼ぶこともないものね」
その言で、孝志は胸が痛くなったらしい。
「かわいそうだった?」
私が聞くと、夫はしばらく考えた。
「し。でも、昔なら俺、そこで『置いておけばいい』って言ってたとう」
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「今回は?」
「何も言わなかった」
「それでいいのよ」
かわいそうだからと何でも残してやることは、優しさではない。
には本が失うべきものまで周囲が守ってしまい、へめなくなる。
義母に必なのは、本の器ではなく、で全に暮らせる活だった。
数、義母は私へい話をしてきた。
「しい部のカーテン、何がいいとう?」
私はし驚いた。
これまで義母は、自分ののことで私へ相談することなどほとんどなかった。
「当たりがいいなら、いの方がるく見えるんじゃないですか」
「そうね」
それだけの会話だった。
でも私には、その話が議にへ残った。
億円のを「公平に譲る」と宣言した女性が今、数千円のカーテンを自分で選ぼうとしている。
きさも値段も、からどう見えるかも関係ない。
自分が毎見るものだから選ぶ。
義母はようやく、自分の活を自分のために作り始めていた。
そして引っ越し当。
私は最までへかなかった。
そのの夜、帰宅した孝志が語った「鍵を閉めた瞬」の話を、私は忘れないとう。