"4億円の私の家を義弟に譲る義母――夫の一言で凍りついた古希祝い" 第13話
空っぽになっていく
引っ越しをに控えた平の午、私は活インフラの続きに必な類を届けるため、でを訪れた。
玄関をけた瞬、見慣れたはずのが別の所のように見えた。
には段ボール箱が積まれ、壁際にあったきな具はすでに運びされている。器棚を置いていた壁には、が当たらなかった部分だけの違う角い跡が残っていた。
「類を持ってきました」
声をかけると、義母が奥からてきた。
化粧もせず、きやすいセーターとズボンを着ている。その姿は、古希祝いで着物を着込み、親族のに座っていた女性とは別のようだった。
「わざわざ悪いわね」
私は類を渡した。
「随分片付きましたね」
義母は段ボールを見回し、自嘲気に笑った。
「ほとんどらない物だったわ。私、もガラクタを守ってたのね」
その言葉に、以の刺々しさはなかった。
しい部へ持っていくのは、普段使いの器、類、数冊のアルバム、そして義父の写真。
豪華な着物も、きな壺も、親戚を招くための器もほとんど処分した。
義母は壁にてかけた義父の写真を見て、に言った。
「お父さん、ってるかしら」
「どうしてですか」
「を守りきれなかったから」
私はすぐに否定した。
「お義父さんは、このを守ることより、お義母さんが全に暮らす方を望んでいるといます」
広告
義母が私を見た。
しばらくして、さく息を吐いた。
「そうね。あのは、そういうだったわ」
、を失ったことは義母にとって、単なる財産の喪失ではなかったのだろう。
妻として、母として、黒田のとして、自分が築いてきたものを全部失ったとった。
だから借りたを「本」に変えることで、失敗をなかったことにしたかった。
私はその気持ちを理解できないわけではない。
けれど理解することと、許して境界を消すことは違う。
帰ろうとした、義母が背へ声をかけた。
「彩さん」
「はい」
「……あのの古希祝い、悪かったわね」
私は振り返った。
義母は私を見ず、段ボールのテープを指で何度も押さえていた。
完全な謝罪ではなかった。
何が悪かったのかも、まだにできない。
それでも、彼女が初めて自分から「あの」を認めた。
「はい」
私はそれだけ答えた。
い言葉はいらなかった。
本当に必なのは、これから同じことを繰り返さないことだからだ。