みかん小説
本棚

"昭和19年、三十二人が夕飯を拒んだ理由" 第17話

帳面を閉じるに

がづくと解けが寺の段を流れ、子どもたちは久しぶりにでれるようになった。しかし糧の話が終わったわけではない。藤岡は町の関係者を集め、寺と作業所の米について調べた結果を伝えることになった。玄は井に、児童の席簿と事の記録を持っていくよう頼んだ。

会には古川、柳瀬、作業所の責任者、の代表、それに寺で炊事をしていたしのも同席した。正雄たちは参加しなかったが、玄があとで内容を説してくれた。俵の割当のうち、俵を寺へろし、俵を作業所へ回したのは町の判断だった。ただし、その処理を寺への全量搬入として記録したことは誤りであり、受領印を押した井にも責任があるとされた。

さらに、作業所へ回した糧の部が正しく届けられず、柳瀬が別の商との取引に使おうとしたことも認められた。柳瀬は定期、町の糧運送を任されないことになり、受け取った物資の返還と記録の修正を求められた。古川については適切な名簿処理と受領の扱いが問題となり、糧の配かられて別の担当者が引き継いだ。

正雄は説を聞いて、「これで全部、元通りになるんですか」と尋ねた。玄は首を振った。「べてしまった米は戻らんし、の寒さも取り消せん」

広告

。井も「私が押した印の責任は残る」と続けた。正雄はようやく、が責任を取るとは、謝ったら終わりではないのだと分かった。届かなかったべ物を数え直し、次に同じことが起こらない仕組みを作ることまで含むのだった。

井は教へ戻れたが、教師としての仕事の扱いについてはなお指導を受けることになった。児童の宿舎で事がりないとりながら、正しい数量を確かめずに受領を認めたことを、自ら報告したからだ。正雄は先が仕事を失うのではないかと怖かった。井は「先でいたいからこそ、隠したままではいられない」と言った。

ある午、正雄はしのが古い帳面を鉢の横でいているのを見た。寺が児童を預かったから、買い入れた物、もらった物、誰に分けた物まで細かくいてあった。ところが昨のの数頁だけ、しののが乱れている。正雄が尋ねると、しのは頷いた。「りないのをっていて、どうけばいいか分からなかった。あとで見たに責められるのが怖かったんだよ」。

「僕らも、ちゃんといたつもりで違えてるかもしれません」。正雄が言うと、しのはしばらく見つめたあと笑った。「それなら、あとから直せばいいのさ。直したことが分かるようにね」。そう言って、帳面の数字を消さずに横へ正しい数をきした。

広告

正雄はそれを見て、自分の記録帳にも同じやり方を取り入れた。違いをなかったことにしないためだった。

がづく頃、作業所へのはようやくも荷も通りやすくなった。直したを最初に歩いたのは、寺へべ物を届ける男たちだった。正雄はで荷を受け取るしのの横にち、袋の数を緒に確かめた。つならつ、つならつ。それを当たりに言えるだけで、胸のつかえがし軽くなる気がした。

だが、これで寺の暮らしが豊かになるわけではなかった。先には米も麦もし、子どもたちは畑の入れを伝うようになった。正雄は正しい記録が必な理由を、以よりくじていた。りないこそ、誰がどれだけべるのかを曖昧にしてはいけない。そうしなければ、声のさいから先に事がなくなってしまう。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: