"空の米びつと一合の嘘" 第12話
消されるに
佐野は約束の朝、事務所のにっていた。髪をえる余裕もなかったらしく、鞄からいの束がはみしている。「ではもう話せません」と言い、勇をくの茶へ連れていった。、机を片づけるよう命じられ、担当する帳簿も別の係員へ渡されたという。「紛失した訂正印のことを調べたのが気に入らんかったようです」。彼は震える指で湯呑みを持った。
「私が写したのはこれです」。佐野はを並べた。そこには、古い登録名義を使った米の移がいくつもあった。義助の名で処理された分だけでなく、戦に廃業したや、所を移した商の名まである。いくつかには旧式の印が押され、受け取った相の欄が空だった。「この分を納入済みにして、別の帳面では学向け材料かの事用へ振り替えてるんです」。
勇は数量をした。ので毎回していた分にいが、しい。佐野は「余りは別の方面へ回っているはずです」と言った。「けど、その先は私の担当では分かりません」。勇は「どうして今まで黙ってたんです」と尋ねた。佐野は湯呑みを置いた。「私、戦争から帰った弟と暮らしです。弟は体を悪うして、よう働きません。ここを辞めたら医者にかかるもせへん」。彼はまっすぐ勇を見た。
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「黙ってた理由にしても、ええことやありません」
そのの昼、倉庫の入りに関係したつのへ確認にった。最初のは「類のことは分からん」と戸を閉め、軒目は「先代のの話や」と首を振った。軒目の主だけが、勇たちを奥へ招いた。「に、昔の登録を消したら続きが複雑になる言われて、そのままにしてた」。主は退職した父の名で伝票がいていたことをらなかった。署名の写しを見せると、顔が真っ青になった。
主は勇へ箱を持ってきた。には古い印鑑が入っていた。「事務所へ返すように言われてたけど、どこへ返したらええか分からんかった」。勇はそので触らず、類の写しを取った。佐野が言った。「印鑑の形が似てるかどうかは、比べてもらいましょう」。は誰かを勝に犯に決めないよう注した。自分たちに必なのはりを発散することではなく、使われた記録をつずつ止めることだった。
夕方、千枝が訪ねてきた。別の配所での受け取りが始まる程が決まったという。「やっと次の米がもらえる」。笑いかけて、千枝は表を改めた。「でも、のない分はどうなるんですか」。フミは「まだ何も決まってません」と答えた。千枝は「それなら、うちらの名も入れて正式に申します」と言った。米をなく受け取った軒くのうち、軒がすでに署名していた。
フミはそのを見つめた。「私の名もかせてもらえますか」。千枝はし考え、「被害を受けた客と同じ欄にはけません」と答えた。「でも、事をるとしてなら、いてください」
その夜、が勇のにちはだかった。暗いで、男は無理に声をくして言った。「佐野と緒に役所を嗅ぎ回ってるそうやな」。勇はを止めた。「帳面のなところを確かめてるだけです」。は「おのが再び配を扱えるかどうか、まだ決まってへんのやで」と言った。勇が答えるより先に、ろからフミの声がした。「それを決めるのはさんではありません」。母は息子の隣へち、まっすぐ男の顔を見た。「私のしたことは私が説します。もう、誰かに預けたままにせえへん」