"空の米びつと一合の嘘" 第11話
父の最の帳面
義助の最の帳面には、鉛でかれた名が並んでいた。港にい倉庫、炊事、焼け残った学、そしてからほどい。戦争が終わってもない頃、々はむ所と働く所を何度も変え、米の配を受け取る所も定まらなかった。義助は正式な割当てとは別に、配に関する問いわせを受けていたらしい。数ページごとに《預かり》《確認》の文字があるが、決まった受領印は押されていなかった。
「お父ちゃんは、らん米のき先をってたんやろか」。澄が聞いた。フミは首を振った。「あのがくなった頃には、今ほど運ぶ米がまとまってへんかった」。勇は帳面の最に細いが挟まっているのを見つけた。《名義貸しを求められても応じないこと》。父の字だった。そのに、誰かの名が途まで記され、線で消されている。義助はくなる、をの伝票に使われることを警戒していたのだ。
勇はを灯りへ透かした。線のに残る字は《》のように見えたが、断定できない。父が何を恐れていたか、本には聞けない。そこで義助が昔世話になっていた隣町の米・細川を訪ねた。細川は古い帳面を見ると、「義助さんは度、配の扱いでと揉めた」と教えた。「戦すぐ、名義だけ借りて倉庫を使いたいと言われたそうや。
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義助さんは、帳面の責任を持てんから断ったらしい」。
「それなら、なんで今も父の名を使えるんです」。勇が聞くと、細川は「役所へ提した昔の類が残ってるからやろ」と答えた。古い印や跡を真似するのは、らない者には難しいが、帳面を預かる者なら材料はいくらでもある。細川は声を落とした。「せやけど気いつけや。米が方やいう話は、の商売を責めるだけでは済まん。類を通した役所のにも説してもらわなあかん」。細川は帰り際、義助がよく使っていた算盤を勇のへ置いた。「これは昔、あんたの親父さんに貸してもろた。返す期を逃したんや。今度はあんたが使い」。珠の欠けた古い算盤だったが、勇は切に持ち帰った。
に戻った勇は、母に父のを見せた。フミはしばらく眺め、「この字、違いなく義助さんや」と言った。帳面を閉じず、父が残した注きをページの番へ置いた。「今まで私は、夫のを守ることと、夫の言うてたことを守ることが同じやとうてた」。そして息子へをげた。「違うたな。を守るつもりで、あのが嫌がったことを自分でしてた」
夕方、役所から通が届いた。のの取扱止は調査が終わるまで継続されるという。方、隣の別の配所へ移る続きは、数に始まるらしい。
フミは通を丁寧に畳み、帳へ置いた。翌にはに残った米を、役所の指示に従って返納しなければならなかった。「もう米やないんやな」と弘が言うと、フミは「今はそうや」と答えた。「でも、おの父さんのが何をしてきたかは、ちゃんと残さんとあかん」
夜、佐野から伝言が届いた。配事務所の古い納控えのに、《義助》を差とする類が複数あるという。そのうち枚は、印がほかとらかに違っている。「印鑑を押したも、字をいたも、同じとは限りません」。佐野はそうき添えていた。勇は翌朝、控えを確認する約束をした。そのはまだ、佐野本が職で調査を妨げられ始めていることをらなかった。