"空の米びつと一合の嘘" 第9話
荷のき先
第のき先は、戦の復旧事に従事する作業員のための共同炊事だった。港のくに設けられ、働く男たちへい事をしているという。勇もはっていたが、そこがのの配米とつながっているとは考えたことがなかった。仕事を終えてから訪ねると、昼を過ぎても数の作業員が皿を持って列を作っていた。
炊事の責任者・浜は「米の仕入れは栄品商会を通しとる」と答えた。「代はちゃんと払うてる。うちも苦しいんや」。勇がその米は区の配分ではないかと尋ねると、浜は顔をしかめた。「そんなこと聞いてへん。伝票には臨配分といてあった」。さらに浜は支払いの控えを見せた。代はの相よりいが、無償ではない。「わしらが盗ったいうんか」。勇は首を振った。「盗ったを決めたいんやない。どこから来たかを確かめたいだけです」
炊事の奥で事をしていたの男が会話に加わった。「わしらの飯がなくなったら、港の仕事が止まる」。男の腕にはきな古傷があった。「子どもらが腹減ってるのも分かる。せやけど、ここで働いてる親父らもへ米を持って帰られへんから、せめてうてるんや」。勇はその言葉に返事ができなかった。自分も同じ荷役で働き、昼の飯を抜いたのふらつきをっていたからだ。
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浜は勇をへ呼びした。「正吾という若い男なら、昨来た」。勇はわず顔をげた。「ここに?」。「ああ。自分が運んだ米のことを聞いてきた。部の商会で伝票をき直してるんちゃうか言うてた」。そして浜は周囲を確かめ、「その、鶴田が迎えに来た。正吾は連れてかれたんやない。自分から荷に乗った」と告げた。
正吾がどこへったのかは分からない。勇は浜から借りた納入控えをき写し、へ戻った。フミに見せると、母は息を呑んだ。「学やないんか」。勇は首を振った。「学へ納めたことにして、事の炊事へ回してる。も取ってる」。フミは机にをついた。「せやから、子どもへの材料の数がわんかったんや」。ただし浜が見せた帳面の数量は、配所から欠けていた全量には届かなかった。別に流れた米がまだある。
夜、町内会館で再び集まりがかれた。勇は炊事の記録を説したが、受け取ったのには「働くへ回ったんなら仕方ないんちゃうか」と言う者もいた。千枝はちがった。「そのらをべさせる米がるなら、そう言うて、どこからすか皆で決めたらええ。うちらの受取量だけ勝に減らして、帳面には全部渡したとくのは別の話や」。そのにいた修平が静かにうなずいた。で働く男も、庭で鍋を見つめる女も、どちらかを敵にして済む問題ではなかった。
集まりが終わる頃、正吾が戻ってきた。片方の頬が腫れ、着は埃だらけだった。勇が駆け寄ると、正吾は「勝に倒れて棚へぶつけただけや」と笑った。無理な笑いだった。彼は胸元からさな帳面をした。「鶴田さんが見せてくれた。途の倉庫で量り直した控えや」。そこには袋ごとの数字が細かくかれていた。そして番に、ある物の署名があった。
フミは帳面をいて、しばらく声がなかった。その署名はにくなった夫・義助のものだった。