"空の米びつと一合の嘘" 第8話
母が黙った
勇が栄品商会での話を伝えると、フミは急いで帳へ入り、古い封筒をした。には数かの付で、栄品商会から受け取った領収の控えがあった。勇は目を見張った。「母さん、あの業者と直接やり取りしてたんか」。フミはうなずいた。「米がらんようになった最初の、部さんがへ来た。余分の運送賃をこちらで負担すれば、次からせんようにすると言うたんや」。
「払うたん?」。勇は聞いた。フミは「払うた」と答えた。「父さんが残したさい貯を崩した」。そのも米はらず、部は事務所の続きが遅れていると言い続けた。フミは自分が騙されたと々じていたが、役所へ申しれば商売の帳面も調べられる。配所を失う怖さが先にった。「何度もをしたんか」。勇が聞くと、フミは首を振った。「度目は断った。そしたら『今までの伝票も全部調べられるで』と言われた」
勇は母の肩がさく見えることに驚いた。「正直に話してくれてたら、こんなことにならへんかった」。フミはらなかった。「おが正しい」。勇はその言葉に層腹がった。母に言い返してほしかったのではない。いつも黙って、と族のためと称して決めてしまう母を、もう見たくなかった。「これからは帳面を隠さんといて」
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。フミは古い封筒を息子へ渡した。
そのの午、弘が学から戻り、玄関で倒れた。きな音がして澄が駆け寄ると、弟は唇をくしていた。慌てて所の医者に診せると、眠と栄養の偏りがなっていると言われた。く病気というわけではなかったが、分にべさせていない現実を突きつけられた。フミは医者ので何度もをげた。弘は布団のから、「お母ちゃん、僕は丈夫や」と笑った。その言葉は、族の誰にとっても慰めにならなかった。
夜、千枝が芋をつ持って見いに来た。フミは受け取らないと言ったが、千枝は「うちの田舎から送ってきたんです」と畳へ置いた。「お米のことは別です。この子が倒れたからいうて帳面の話を終わりにはしません」。フミはうなずいた。「それでええ」。のには、客と主という昔の距は戻らなかった。だからこそ、その晩初めて正直に言葉を交わせたのかもしれない。
その晩、澄は弘の枕元で学の本を読んでやった。弟が眠ると、彼女は母に「から私の弁当はらん」と言いかけたが、途でやめた。母の負担を減らしたい気持ちは本当だった。しかし自分まで黙ってすることが、族を助ける唯の方法ではないと気づき始めていた。代わりに澄は、古い布袋の繕い仕事をから伝わせてほしいと頼んだ。
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フミはくうなずいた。
夜、勇は母の帳面をすべて机へ並べた。部への支払い、鶴田の配送刻、の押印、受け取らないトキの名。どれも別々の正に見えた。しかしごとの付を並べると、同じのに集している。のへ袋が届くに部の倉庫へ移し、その翌には受領済の印が押され、さらに数、がへ来ていた。偶然ではない。勇はの真んに太い線を引いた。
翌朝、勇が正吾を訪ねると、荷役の係からわぬことを聞いた。正吾は夜、勤しなかったという。部へっても姿がなく、隣は「鶴田さんが来てから荷物をまとめてていった」と話した。勇は胸騒ぎを覚えた。正吾の残した机のには、半分破られた古い運送伝票が落ちていた。そこには栄品商会でものでもない、第のき先がかれていた。