"空の米びつと一合の嘘" 第3話
青い紐
翌の昼、勇は荷役ので荷を待った。配所へ回す袋は度、内の集積所でまとめられ、それぞれの区へ運びされる。荷役では袋を肩に担いで積みろしし、忙しいは伝票と実物を突きわせる余裕がない。だが、勇には見覚えのあるものがあった。のに来る袋のには、いつも青い紐が結ばれていたのだ。
正吾は「あれは運び先を分けるための目印や」と教えた。勇は荷がくのを待ち、し距を置いてを追った。は通りをれ、焼け跡のに残った古い乾物倉庫の裏へ入った。運転の鶴田が誰かとく話し、袋をつろした。そので米が抜かれたところまでは見えなかった。鶴田はすぐ戻り、同じ袋をへ積み直した。勇は焦ってづいたが、相に気づかれ、へ引き返した。
へ戻ると、フミは配のための枡を磨いていた。勇が見たものを話すと、フミは黙り込んだ。「青い紐の袋、度どこかへ寄ってる。お母ちゃん、ってたんやろ」。フミは「見たんか」と聞いただけだった。「なんで止めへん」。勇が声を荒げると、フミは枡を机へ置いた。「が止まるんはってた。でも、そこで何してるかはらん。らんことを、見たみたいに言うな」。
勇は母の言い方に苛った。らないと言い張れば責任から逃げられるとっているのか。
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しかしフミは続けた。「こないだも袋を受け取るにさが違う言うた。そしたら、さんが『文句を言うには次の配を回す順番が遅うなる』言うたんや」。フミは帳面に爪をてた。「来ぇへんよりなくても来る方がましやと、私はうてしもた」。
「勝に決めたらあかんやろ」。勇は返した。「みんな、決められた量を受け取れるとうて印を押してる」。フミは目を伏せた。を守るためだった、とは言わなかった。「その通りや」とだけ答えた。勇は初めて、母が自分のしたことを正しいとっていないと気づいた。違いとりながら、毎回なく量り続けていたのだ。
夕暮れ、歳のがの裏へ来た。古着の着を着て、にはきすぎる駄を履いていた。「おばさん、おる?」。フミの顔が瞬やわらいだ。「信ちゃん、今はあかん。誰か見てるかもしれん」。は掌をいた。には割れたさなの印があった。「ばあちゃんが、これでええか聞いてこいって」。勇がづくと、フミはをへし、戸を閉めた。
「今の、誰や」。勇が尋ねた。フミは「所の子や」と言った。「ほんなら、なんであんなに親しそうなんや」。問いかけた瞬、フミは勇を睨んだ。「昔からってる子や」。勇は納得できなかった。米を持ち帰る様子もないが、毎どんな用事でこのへ来るのか。
勇は戸の隙から、が角を曲がるのを見送った。
夜、澄が学の裁縫具を片づけながら言った。「兄ちゃん、あの子、ずっとから来てるで」。勇はを止めた。「いつから」。澄は「なくともから」と答えた。「お母ちゃん、いつも切れを渡してる。米を持って帰ってるとこは見てへんけど」。は米を取りに来たのではない。では、何のためにのへ通っているのか。勇は母の帳面の最の頁に、見慣れない名を見つけた。
《田所トキ 受領済》