"亡霊の専属運転手" 第2話
仕組まれた密
待の苦しい空気の、壁掛け計の針が午を指した。
ピピッ、と壁面のインターホンが無質な子音を鳴らした。
『候補者の皆様、お待たせいたしました。奥の特別面接へお入りください』
案内放送が流れると、の男たちは敵な笑みを浮かべいながら、ゾロゾロとちがった。着の裾をえる作の端々に、脇の量物を無識に確認する癖が滲みている。
美央は彼らが全員部をるのを待ち、最尾から静かに歩みした。
その際、美央の線が待の井隅に設置された防犯カメラを捉えた。
(……ランプが消えている)
カメラのレンズ横にあるはずの、作を示す赤いLEDが完全に消灯していた。故障ではない。何者かがフロア全体のセキュリティシステムを図にダウンさせ、映像の記録と部への発信を物理に遮断したのだ。
(会を狙っている……それも、部からの侵入ではなく、このビルの枢に引き入れた黒幕がいる)
美央の胸の奥で、静かにたい覚悟が固まり始めた。
逃げすことはできた。今すぐエレベーターに乗って階へりれば、自分だけは平な常へと戻ることができる。
だが、美央の記憶には、ひとつの鮮烈な恩義があった。
、のカハル油田帯。反政府武装勢力によって質に取られた本技術団のに、このホールディングスの現会がいた。
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当、単独で敵アジトに潜入した美央は、傷を負いながらも会を背負い、灼の砂漠をキロ破して友軍のヘリへと送り届けたのだ。
あの、衰した会は、美央のにまみれたを握りしめ、涙を流しながら「いつか本へ帰ったら、必ず恩を返させてくれ」と呟いた。美央自は元を秘匿する規律に従い、名乗ることもなく部隊と共にったが、その命を救った記憶だけは鮮に残っていた。
(あのを、こんな汚い罠でなせるわけにはいかない)
美央はな特別面接の扉にをかけ、ゆっくりと押しけた。
部のは、畳を超える広な役員応接だった。
正面には、枚板から削りされた巨なマホガニーの面接テーブルが置かれ、その向こう側に数名の役員が並んでいる。そして、その央にふんぞり返るようにして座っていたのが、今回の採用責任者である副社の剛田(ごうだ)だった。
代半ばの肥満体型、撫で付けられた油ぎった髪に、仕ての良すぎるストライプのスーツ。剛田は美央が入してくるのを見るなり、あからさまに愉そうな顔で眉をひそめ、舌打ちを響かせた。
「おい、事。どういう違いだ? なぜこんな女が最終面接に残っている」
剛田は元にあった美央の履歴を乱暴につまみげると、に目を通すことすらなく、テーブルの端へと放り投げた。
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ペラリとが滑り、に落ちそうになって止まる。
「うちはな、会の命を預かる本物の専属運転を探しているんだよ。おのような娘が、事の際に会の盾になれるわけがないだろうが。お茶汲みならの階で募集しているから、さっさと帰れ」
剛田の骨な侮蔑の言葉に、周囲のの男たちが卑た笑い声をわせた。
「副社の仰る通りですよ。女の来る所じゃありません」
「く帰って、お形遊びでもしてな」
嘲笑の集砲を浴びながら、美央は背筋を寸分も曲げず、最も端に置かれたパイプ子へと静かに腰をろした。
「私は所定の類選考と適性検査を通過してここに呼んでいただきました。面接を受ける正当な権利があります」
美央の凛とした、しかし抑揚を抑えた声が静かに響いた。
剛田の顔が、りで赤黒く変した。
「気なを叩くな! 女が男の仕事にを挟むなと言っているんだ! 私の決定に従えないなら、警備員を呼んで力ずくで叩きすぞ!」
剛田が激昂して机を叩いた、そのだった。
カチャリ、と背のな扉が内側から施錠される音がした。
美央は線をかさずにを澄ませた。扉のにった男が、子錠のインターロックをで切断した音。
そして、剛田の線。彼は声をげながらも、その目は美央ではなく、壁掛け計の針と、部の奥にある役員専用のプライベートドアを、焦燥を孕んだ瞳で何度も往復していた。
(この男……待っているんだ)
美央の脳内で、パズルのピースが瞬で組みわさった。
剛田は、美央が目障りだから追いそうとしているのではない。もなくこの部に入ってくるはずの「本命の獲物」——現会の到着をに、予期せぬ部者である美央を排除し、完全な密で暗殺を実しようとしているのだ。
の武装した傭兵を引き入れた黒幕は、ならぬこの副社、剛田だった。