"消された十六番目の席" 第12話
夜の着信拒否と暴かれた台帳
「輔、今すぐお母さんに話しなさい! 座してでも連れ戻してくるんだ!」 久志の声に弾かれたように、輔は震える指先でスマートフォンを操作した。 スピーカーホンから流れるコール音。 しかし、返ってきたのは、無質な械音声だけだった。
『おかけになった話は、源が入っていないか、波の届かない所にあります――』
「ない……何回かけても、源が切れてる……!」 輔の顔は気に変していた。 発信履歴には、すでに回を超える「着信」の記録が並んでいる。 麻美もまた、パニックに陥りながらLINEの画面を連打していた。 『お母さんどこですか?』『勝にてくなんて無責任です』『親戚に恥をかかせて楽しいんですか?』 送信をねるが、既読のマークはつとしてつかない。
その、リビングの隅で腕を組んでいた敏さんの夫・武雄さんが、々しくをいた。 「輔君。さっき、吉川の将が言っていた言葉を覚えているか? 『予約の台帳を度見に来い』と言っていたな」 「え……? あ、はい……」 「あれはどういうだ? なぜ将は、あんたに台帳を見ろと言ったんだ?」
輔はハッとして、麻美の顔を見つめた。 麻美は線を泳がせ、急に押し入れのにしゃがみ込んで布団を引っ張りそうとした。 「そ、そんなことより! く布団を敷かないと子供たちが邪を引いちゃうわ! ほら真由、伝って!」
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「麻美、誤魔化すな!」久志がした。 「の番で、輔君と緒にその寿司へってきなさい。……わしらも同する。かず子さんがなぜをたのか、その根本の原因を突き止めない限り、わしらはこのを歩もられん」
その夜、田を包んだ空気は、まさに獄そのものだった。 泊まるはずだった川の面々は、居所を失ってリビングにち尽くしていた。 階の側の部は、麻美が勝に荷物を運び込んでいたための踏みもなく、階のにはかず子の布団が組、押し入れの奥に残されているだけ。 シーツや枕カバーがどこにあるのか、このの誰もらなかった。すべて、かず子で管理していたからだ。
「らないわよ! お母さんが勝に片付けてるんだから!」 ヒステリックに叫ぶ麻美に対し、千恵里さんはややかに言い放った。 「もういい加減にしなさい。……お母さんのお布団には、指本触れては駄目よ」 結局、彩佳さんと真由がからバスタオルを何枚も持ち込み、畳のに直接敷いて、眠りこけた子供たちを横たえた。 の男たちは、が微かに効いたリビングのフローリングので、座布団を枕にして毛布にくるまった。 かず子を「ソファで寝かせればいい」と言い放った麻美の父・久志が、自らそのたいソファに横たわり、井を見つめていため息を漏らし続けた。
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そして翌朝、の午。 寿司『吉川』の直、輔と久志、そして千恵里さんのは、固く閉ざされた引き戸のにっていた。 勝から声をかけると、仕込みをしていた将が、鋭いでを見据えた。 「……何の用だ、輔君」
「将……昨夜の、台帳の件を聞きたくて来ました。俺の名の予約で、何かあったんですか……?」 将は無言のまま、調理から冊の分い革表の予約台帳を持ちしてきた。 カウンターのにドサリと置き、該当のページをく。 輔が覗き込んだその瞬、彼の全の血液が逆流した。
【:田輔様 半 名 座敷個】 その横に、赤ペンで太い線が引かれ、震えるような跡でこうき直されていたのだ。
【変更:名。義母は混み嫌いのため欠席。義母用・穴子握りキャンセル。受付:奥様(麻美様)携帯より】
「……な……」 輔のが、ガタガタと音をてて震えした。 ろから覗き込んだ久志の顔が、りで真っ赤に沸騰した。 「麻美が……暮れのに、自分から話をかけて……席削ったというのか……!?」
「そうだ」将は腕を組み、徹に言い放った。 「うちの座敷はまで入れる。最初から満席なんかじゃねえよ。麻美さんがな、『義母がどうしてもきたくないと駄々をこねるから』って話してきたんだ。
俺は胸騒ぎがして、昨の夕方、かず子さんに直接話したんだよ。そうしたら、かず子さんはお寿司の話すら聞かされていなかった! ……あんたら、親父さんの親友のを、母親を虐めるための台に使ったんだぞ。度と敷居を跨ぐな!!」
将の号が、静かな内に響き渡った。 輔はそのに崩れ落ち、カウンターの縁を掴んで慟哭した。 席がなかったのではない。 母をこのから、親戚の輪から、そして族という名のすべてから抹殺するために、妻が図に席を消しっていたのだ。