"消された十六番目の席" 第10話
い便箋の宣告
輔は、まるで劇薬でも掴むかのように、震える指先でその便箋を持ちげた。 背から、麻美の両親である久志さんと千恵里さんが、息を殺して覗き込む。
「だ、輔君……それ、お母様のかい……?」 久志さんの掠れた声に、輔は答えられない。 喉が痙攣し、呼吸がく吸い込めないのだ。 輔は、乾ききった唇を微かに震わせながら、そこにかれた文字を、途切れ途切れに声にして読みげた。
『輔へ。 留守番はできません。 どうぞ、内だけで楽しくお過ごしください。 私もしばらく、自分の好きな所で過ごします』
静まり返ったリビングに、輔の震える声だけが虚しく反響した。 そして、輔の線が、分だけ空を空けてかれた、最の文に留まった。 声が、恐怖で裏返る。
『布団は、自分たちで敷いてください』
ペラリ、と便箋が輔のから滑り落ち、散らかった座卓のに落ちた。 「内だけで……?」 麻美の妹である真由が、怪訝そうに目を丸くして姉の顔を見つめた。 「ねえ、お姉ちゃん……どういうこと? お義母さん、混みが嫌だからにいたいって言ってたんじゃないの? なんでこんなを置いてていくのよ?」
麻美の顔から、スッと血の気が引いていった。 「そ……それは……」 「麻美さん!」 敏さんが歩、麻美のへと詰め寄った。その瞳には、かつて見たこともないほどの激しい気の炎が燃え盛っていた。
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「かず子さんは、自分から留守番を望んだんじゃないわね!? あなたたちが……無理やり置いていったのね!?」
「ち、違います! 席が! おの席が席しかなかったんです!」 輔が取り乱し、叫ぶように弁解した。 「俺だって母さんを連れてきたかったよ! でも、が満席でどうしても席りなかったんだ! だから仕方なく……!」
そのだった。 母親の彩佳さんのろに隠れていた学の連君が、さな顔を覗かせ、澄み切った声でその嘘を砕したのだ。
「麻美ちゃん、『内だけで楽しみたい』って言ってたよ」
「……え?」 千恵里さんが息を呑んだ。 連君は、輔と麻美を指差しながら、はっきりと告げた。
「僕、夕方に袋を忘れて台所に取りに戻った、聞いたもん。麻美ちゃんがおばあちゃんに『今は内だけで楽しみたいので』って笑いながら言ってた。おばあちゃん、コートを持ったまま、ずっとが止まってたよ」
リビングの空気が、完全に凍結した。 彩佳さんが慌てて連君のをで塞いだが、もう遅かった。 翔太が息子の肩を抱き寄せ、「連、それ本当か?」とく問い詰める。連君はコクンとく頷いた。
千恵里さんの線が、ゆっくりと、恐ろしいほどのたさを帯びて、実の娘である麻美へと向けられた。 「麻美……。あなた、なんてことをしたの……?」
「ち、違うの、お母さん! あれは……!」 麻美の切り声が響く、敏さんは無言で台所へ向かい、にしたい包みを、便箋の横に静かに置いた。
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「吉川の将から預かってきた、かず子さんの好物の穴子よ。……兄さんがきていた頃、毎かず子さんにべさせていた穴子。めないうちに届けてくれって、将が持たせてくれたのよ」
座卓のに並んだ、たい便箋と、温もりを失いかけた穴子の折詰。 誰も、言も発することができなかった。 あまり、き夫が『みんなが集まれるように』と建てたこので、母親を「内ではない」と切り捨てて追いした息子夫婦の醜悪な化けの皮が、完全に剥ぎ取られた瞬だった。
だが、この夜の修羅は、まだ序章に過ぎなかった。 彼らは翌朝、自分たちが蹴にした「れな居候の老母」が、実はこのの絶対な支配者であり、彼らの元を根底から吹きばす爆弾を握っていたという戦慄の真実を、ることになるのである。