"消された十六番目の席" 第8話
子供の無邪気な言
「……え? 連、何言ってるの?」 母親の彩佳さんが、慌てて息子の袖を引いた。 しかし、連君は無邪気な瞳でたちを見回し、はっきりとした声で言葉を続けた。
「さっき台所でジュースもらった、おばあちゃんに『何が好き?』って聞いたの。そしたらおばあちゃん、『お寿司ので、穴子が番好きよ。甘いタレがついたふわふわのやつ。おじいちゃんも好きだったの』って笑ってたもん! お寿司、べたいって言ってたよ!」
座敷のに、針が落ちても聞こえるほどの静寂が広がった。 輔の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。 敏さんの目が、鋭く見かれた。 「麻美さん……? かず子さん、お寿司が好きなんじゃない。どうして『きたくない』なんて嘘を……」
「あ、いや! 子供の言うことですから!」 麻美は引き攣った笑顔を顔面に貼り付け、慌ててを振った。 「連君、には々あるのよ! ほら、連君の好きなマグロが来たよ、たくさんべなさい!」 麻美は引に話を打ち切り、話題を逸らそうと甲い声を張りげた。 だが、敏さんをはじめとする夫側の親戚たちの差しには、拭いようのない猜疑のが濃く宿り始めていた。
そこへ、の簾をくぐり、割烹着姿の吉川の将が自ら座敷へとがってきた。 そのには、漆黒の角皿に乗せられた、湯気つ貫の握りが握られていた。
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琥珀の煮ツメが艶やかにる、肉の極穴子。 将は黙って連君のに膝をつき、皿を置いた。
「坊主。穴子だ、べてみな。……かず子さんがな、おにべさせてやってくれって、さっき話をくれたんだよ」 「わあ! おばあちゃんが!? ありがとう!」 連君が目を輝かせてに放り込み、「おいしい!」と歓声をげる。 将はそのさなを優しく撫でると、ゆっくりとちがった。 そして、座卓の央に並んで座る輔と麻美を、射抜くような徹な差しで睨みつけた。
宴会がおきになったのは、午分過ぎだった。 輔が引き攣った顔でクレジットカードを差しし、万円を超える代の決済を済ませた。 帳ので伝票を受け取る際、将は輔にだけ聞こえるような、をう音で囁いた。
「輔君。……あんたの親父さんはな、正のこの座敷では、どんなでも母親を真んの特等席に座らせていたよ。それとな、予約の台帳、度見に来な。あんたの名で入ってるんだから、見る権利はあるぜ」 「え……? だ、将、何を言って……」 将はそれ以何も答えず、背を向けた。 そして、帰り支度をする敏さんを呼び止めると、い経に包まれた折詰を渡した。
「敏さん、これ、かず子さんに渡してくれ。正幸さんが毎番に握らせた、穴子の折詰だ。……めないうちに届けてやってくれよ」
敏さんはそのみを受け取り、「ええ、必ず」とく頷いた。
をた。夫の弟の夫さんは「も仕事だから」と駅の改札へと向かい、残された――輔、麻美、川の面々、そしてを実の駐にめていた敏さん夫婦は、夜の吹き抜ける宅を歩いて田へと向かった。 「いやあ、いい正だった! 輔君、ごちそうさま!」 義父の久志さんは嫌で千鳥を響かせていたが、輔と麻美の背には、や汗がびっしりと滲んでいた。
彼らはまだらなかったのだ。 自分たちが気揚々と引き返しているあのが、もはや彼らの帰るべき温かなではなくなっているという事実に。