"玄関のピンクのウサギ" 第18話
世話をすることと、戻ること
信之の回復は、医師が最初に期待したほどくなかった。半のきはしずつ戻ったものの、言葉には詰まりが残り、事にも介助が必な期が続いた。健は仕事の都でく野に滞できず、週末ごとに川町から通う活になった。
ある、健が疲れ切った声で話をしてきた。
「母さん、父さんを川町のリハビリ施設に移そうとってる。俺たちのくの方がきやすいし」
「いいとうわ」
「母さんは?」
「私はここにいる」
「やっぱり緒には……」
「戻らないわよ」
私は笑った。
「配することと、夫婦に戻ることは別。そこをごちゃごちゃにしたら、私はまた同じことをする」
健は「そうだよな」と答えた。
病院へは週に度ほど顔をした。毎ではない。洗濯もしない。続きや介護サービスの調は健と病院側に任せた。ただ、信之が事をほとんど取らないと聞いただけ、昔よく作った牛肉の煮込みを柔らかくして量持っていった。
「今は固いもの無理だから、細かくしてあるわよ」
信之はでゆっくり箸をかし、べた。目に涙が浮かんだ。
「……うまい」
「そう。ならべて」
「み……か。ありが……とう」
「どういたしまして」
私はそれ以のを持たせなかった。
昔の私なら、この「ありがとう」つでが揺れたかもしれない。
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病をにできない、今こそ支えなければと、自分の活をまた差ししただろう。でも今は違う。できるに事を持っていく。それはとしての。介護者として戻ることとは別だった。
信之がし言葉を取り戻した頃、病できりになった。
「美……俺、あの……」
「無理に話さなくていい」
「言いたい」
彼は何度も詰まりながら続けた。
「に……なって。分かった。おが……してたこと」
私は黙って聞いた。
「飯。洗濯。……親のこと。全部……当たりだと」
「そうね」
「ごめん」
私はしだけ窓のを見た。
「謝ってくれてありがとう。でも、だから戻るわけじゃないの」
信之はゆっくり頷いた。
「分かってる」
その返事を聞いて、初めて本当に終わったのだとった。婚届をしたでも、を取り戻したでもない。相が変わるかどうかに自分のを預けなくなった瞬、夫婦という関係は私ので終わった。
退院、信之は健のむ川町にいリハビリ施設へ移ることになった。発の、私は病院の玄関まで見送った。孫がさなを振り、「おじいちゃん、がんばってね」と言った。
信之は子ので私を見た。
「美。元気で」
「あなたも。薬は忘れないで。甘いものも控えなさい」
「先みたいだな」
「先だったもの」
ともし笑った。
が見えなくなってから、健が私の隣にった。
「母さん、ありがとう」
「何が?」
「父さんを見捨てなかったこと」
私は首を振った。
「見捨てなかったんじゃない。私ができる範囲を決めただけ。あなたも覚えておきなさい。優しくすることと、自分を犠牲にすることは同じじゃないから」
その言葉は、息子に言ったというより自分に言ったようなものだった。
歳になった私は、ようやくその違いを理解し始めていた。く続いた関係を終えることと、相の幸を願うことは同じではない。私はようやく、を残したまま境界線を引いてもいいのだと、自分に許せるようになっていた。