"玄関のピンクのウサギ" 第17話
病の写真
婚からく経った頃、塾にの女性が訪ねてきた。田子。私が教師をしていた頃の教え子で、授業にこっそり菓子をべて回も没収した子だった。今は桜医療センターで護師をしているという。
「田島先、覚えてますか」
「忘れるわけないでしょう。あなた、チョコレートを教科のに隠してたじゃない」
子は昔と同じ顔で笑った。けれど、すぐに表を改めた。
「先、今は仕事のことで来ました。森本信之さんのことです」
胸がさく揺れた。
「何かあったの?」
「、救急搬送されました。脳梗塞です」
私は子に座り直した。半に麻痺があり、言葉もにくい。所のが、信之がほどへてこないことを審にい、管理会社を通して通報したらしい。暮らしのアパートで倒れていたという。
「健には?」
「緊急連絡先に登録されていたので連絡しました。ただ、番号が変わっていて、昨ようやくつながりました。今こちらへ向かうそうです」
「私の名は?」
「登録にはありません」
当然だった。私はもう妻ではない。
それでも子がわざわざ来たのには理由があった。救急搬送された、信之の財布と緒にさな写真が枚入っていたという。護師が理したところ、裏に「美 歳」とかれていたらしい。
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私はしばらく何も言えなかった。
「見にくわ」
病のベッドに横たわる信之は、別のように痩せて見えた。は力なく布団のに置かれ、話そうとしても言葉が途切れる。私を見ると、目だけがきくいた。
「……み、か」
「無理して話さなくていいわ」
私はベッド脇の子に座った。
見てきた顔だった。若い頃は顎が細く、笑うとの頬にさな窪みができた。今は頬の肉が落ち、髪も増えている。こんな姿を見れば、婚した相でも何もじないはずはなかった。
でも、元に戻りたいとはわなかった。
子が病へ来て、治療方針を説してくれた。急性期を越えれば期のリハビリが必になる能性がいという。費用や転院先の話もた。
「健が来たら、本と相談して」
「先はどうされますか」
私はし考えた。
「がるなら、には私もすわ。ただし、介護を引き受けるつもりはない」
子は静かに頷いた。
「それでいいといます」
夕方、健が病院に着いた。顔を見るなり「母さん、来たのか」と驚いた。
「見てきたわ。医者の話も聞いた」
「なんでそこまでしてくれるんだよ」
「あなたの父親だからよ」
「でも母さんにあんなことをしただぞ」
私は息子の肩を軽く叩いた。
「だからって、あなたがで『もっとできたかもしれない』って悔するのは嫌なの。
私は私のできる範囲だけする。それ以はしない」
健はしばらく黙り、やがてさく頷いた。
その夜、子から例の写真を見せてもらった。赤いブラウスを着た歳の私が、カメラに向かって笑っている。結婚したばかりの頃、信之が撮ったものだった。
私は写真を返した。
「これは、彼に持たせておいて」
過は消さなくていい。
ただし、その写真のの私に戻る必もない。
病院をると、がたかった。
私は翡翠の腕輪のからコートの袖を押さえ、自分のへ帰った。