"玄関のピンクのウサギ" 第12話
署名しない夫
婚協議を見た信之は、予通りすぐには署名しなかった。については私がみ続けること、預貯は婚姻の形成分を基準に理すること、綾乃や雄への支は資料に基づいて調すること。松本弁護士がつずつ説すると、信之は「そんなに持っていかれたら活できない」と顔を赤くした。
私はその言葉を聞いて、妙な気持ちになった。私が川町で万円も使わず暮らしていた、夫は私の活を配したことがあっただろうか。綾乃に毎万円送り、し、やアクセサリーを買い、〇万円を渡した、自分たちの老を配しただろうか。今になって自分の活だけを訴える姿に、の癖が見えた。
「全部取ろうとしてるわけじゃないわ」
私は言った。
「法律と資料に沿って理したいだけ。あなたのまで私が奪うと言ってるんじゃない」
「でもは俺名義だ」
「だから今、返済記録を見てるの」
松本弁護士が机に資料を並べた。〇〇から続く宅ローン。々の返済のくは私の与座から引き落とされていた。の部も私の退職の積からしている。固定資産税や規模修繕の負担も、夫婦の共通活費から支していた。
「登記名義だけで、の財産形成への寄与が消えるわけではありません」
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松本弁護士の説に、信之は満そうに黙り込んだ。
さらに、綾乃への支を覧にすると、かの定期送万円だけでは済まなかった。カード利用、現引きし、アクセサリー、類、スマートフォン代など、確認できる範囲で万円を超えていた。そこへ雄への〇万円、母の腕輪の買戻し費用が加わる。
「そんなに使った覚えはない」
信之が呟いた。
私はわず言った。
「のおを使うって、覚えてないものなのね」
「俺のも入ってる」
「そう。あなたのおもある。でも私の与で作った貯もある。だから“の財産”だったの。あなたが勝に全部自分のものだとったことが問題なの」
話しいは続いたが、最までには至らなかった。信之は「婚自体にはまだ納得していない」と言い、署名欄を空のまま残した。
事務所をる、廊で信之が私の腕を掴んだ。
「美、裁判までやるのか」
私はをした。
「必なら」
「世に恥をさらすぞ」
その言で、私はを止めた。
「世?」
「も夫婦やって、今さらこんなことで――」
「あなたはも別の女と暮らして、所にられてたのよ。私だけがらなかった。恥を気にする相、違えてない?」
信之は何も言えなかった。
そのの夕方、私はの管理会社に連絡し、今の鍵の変更続きを自分でも確認できるよう登録報をえた。
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以のように、私のらないところで暗証番号を変えられたくなかったからだ。活のさな権限をつずつ自分のに戻す作業は、った以にを落ち着かせた。
夜、健が私の部へ来た。
「母さん。父さん、署名しなかった?」
「ええ。でもいいの。急いで判を押させるつもりはない」
「引いたら疲れるぞ」
「疲れるでしょうね。でもしたのよ。数かくらい、自分のために頑張れるわ」
健はし笑った。
「母さん、いな」
「違うわ。遅かっただけ」
私は本当にそうっていた。もっとく、自分の違を事にしてよかった。もっとく、「それは嫌」と言ってよかった。妻だから、母だから、嫁だからとみ込んできた言葉が、歳になってやっとからるようになっただけだ。
数、正式な続きの準備が始まった。
そして信之は、最初ので「綾乃とは同居ではなく、活を助けてもらっただけだ」と主張した。
それを聞いた私は、鞄から冊のいノートを取りした。
そこには、この、マンションのたちが見ていたことが付つきで記されていた。