"玄関のピンクのウサギ" 第11話
私がいなくなったの計画
翌朝、松本弁護士の事務所で見せられたのは、枚のメモと保険関係の資料だった。信之は産の贈与相談と同じ期に、の財産理についても問いわせていた。法な遺言が完成していたわけではない。だが相談票には、「同居の女性に宅使用を認めたい」「預貯の部を残したい」と具体にかれていた。
私はしばらくを見つめた。
「これ、私が川町にいるですよね」
「はい」
「夫は、私がんだじゃなく、自分がんだのことまでさんと考えてたんですね」
「なくとも、相談はしています」
胸のどこかが、すっとえた。浮気という言葉ではりなかった。信之は別の女と事をし、活を共にし、を渡し、の半分を渡そうとし、自分がんだまでその女が困らないように考えていた。そこまでしておきながら、私には毎晩「く帰ってこい」と言っていた。
「先、私は何だったんでしょうね」
松本弁護士はすぐには答えなかった。
「く婚姻関係にあると、相がそこにいることを当然だとってしまうはいます。ただ、それが相の権利や尊厳を軽く扱っていい理由にはなりません」
私は頷いた。
そのの午、私はに戻り、信之に資料を見せた。夫は目見て顔をしかめた。
「そんなものまで調べたのか」
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「あなたがしたことをりたいって言ったでしょう」
「もしものの相談だ。いはない」
「の半分を渡す相談も、毎の送も、〇万円も、母の腕輪も、全部“いはない”の?」
信之は黙った。
私は押し入れから旅鞄をし、夫の類をしずつ詰め始めた。信之が慌ててづく。
「何してる」
「客へ移って。婚が決まるまでは同じにいてもいい。でも寝は別。事も洗濯も、自分でして」
「美」
「、さんと暮らせたんでしょう。分の活くらいできるわよね」
私は寝から、綾乃が使っていたとわれる柄のブランケットや鉢植え、物を段ボールに入れた。ピンクのウサギのスリッパは、信之が捨てたと言っていた。あのスリッパだけは見なくて済んだ。
片付けながら、私は議な覚になった。を取り戻しているはずなのに、昔の活へ戻っているわけではない。信之の物を客へ移し、自分の本やを寝に戻すたび、のにしい境界線が引かれていく。
「今の連休が終わったら、ここをて」
「どこにけっていうんだ」
「自分で探して。私は川町で、のにわせて暮らした。あなたも自分のむ所くらい自分で決められるでしょう」
「さんのところはもう無理だ」
「それは私には関係ない」
その言葉をにして、やっと分かった。
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私は、夫の困り事を自分の問題として引き受けすぎた。仕事を失えば私が働き、親の介護が必なら私が通い、計が苦しければ私が節約した。夫が困っていると、いつも私が穴を埋めた。だから信之は今も、最には私が何とかしてくれるとっている。
「美。今の連休くらい、族で普通に過ごせないか」
「孫のでは普通にする。でもそれと婚は別」
「回の失敗でを捨てるのか」
私はを止めた。
「回?」
信之は言葉を詰まらせた。
「暗証番号を変えたのも回。送も回ずつ。腕輪を渡したのも回。の贈与を相談したのも回。そうやって数えれば、全部回ずつよ。でもその回を何回も積みねた結果が今でしょう」
私は段ボールの蓋を閉めた。
「私は婚する。あなたが同しなくても、続きはめる」
信之は何も言わなかった。
夕方、松本弁護士から連絡が入り、婚協議のたたき台ができたとらされた。財産分与、第者への支、の扱い、腕輪の買戻し費用、〇万円の回収。それらをつずつ理していく。
そして私は初めて、自分のが「」だけでなく、数字と記録でも残っていたことをった。
宅ローンの返済履歴だけで、私がこのに入れた額は、信之がっていたよりずっときかった。