"濁流の中のSOS" 第13話
「ただいま」と言える所
事件からが過ぎる頃、私と凛はさな賃貸マンションで暮らしていた。以のより狭く、収納もない。駅からもし歩く。それでも、玄関の鍵をけるたびに胸が固くなることはなくなった。
夫が帰ってくるを気にして夕をめる必もない。テレビの音量をげる必もない。何かを言うに相の顔を確かめる必もない。
凛は学になった。
首の怪は治り、部活にもしずつ戻った。以よりよく笑うようになったが、何もかも忘れたわけではない。のには学から帰ると窓を閉め、川の映像がテレビへ映るとチャンネルを変える。それでも、自分が怖いとじたに「怖い」と言えるようになった。
それだけで私は分だとっている。
私も仕事を続けながら、活をからえた。自分名義の座や類を確認し、計の管理を誰かへ任せきりにしないようにした。以なら「こんなことまで考えるなんて疑いい」と自分を責めたかもしれない。
今は違う。
自分と娘を守ることは、誰かを疑うこととは違う。
嫌なことに嫌だと言い、怖いにれ、分からないことを分からないと言う。
それだけのことを、私は歳を過ぎてから学び直した。
あるの、仕事帰りにがり始めた。
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駅をた瞬、アスファルトへ落ちるの音がくなった。私は瞬ち止まった。の奥で、あのの激流の音がなったからだ。
呼吸が浅くなる。
その、スマートフォンが震えた。
凛からだった。
《傘ある?》
私は画面を見つめ、ふっと力が抜けた。
《あるよ。今から帰る》
送信すると、すぐに返ってきた。
《今、カレー作った》
《珍しいね》
《庭科でやったから》
私は笑いながら歩きした。
部のまで来ると、玄関の向こうからカレーの匂いがした。鍵をけるに、私はほんのしだけ目を閉じた。
、夫のので、私は庭を壊さないために何をすればいいかばかり考えていた。川へ落ちたも、最初は必にもがいた。をかし、流れに逆らい、何とか自分の力で岸へ戻ろうとした。
あの、凛が私のをつかんだ。
「お母さん、もがかないで」
あの言葉がなければ、私は力を使い切っていたかもしれない。
今になってう。
私は川のだけではなく、あののでもずっともがいていたのだ。
夫の嫌を直そうとし、族の形を保とうとし、娘に父親のいる庭を残そうとし、自分さえすれば全部うまくいくとっていた。
でも、どれだけもがいても戻れない所はある。
れなければ助からない関係もある。
流れに逆らうのをやめたからといって、諦めたわけではない。
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き延びるために、む方向を変えただけなのだ。
私は鍵をけた。
「ただいま」
キッチンから凛が顔をした。
「おかえり。ちょっと入れすぎたかも」
鍋のでは、しゆるいカレーがぐつぐつ煮えていた。私は靴を脱ぎながら笑った。
「丈夫。煮込めば何とかなるよ」
「お母さん、見して」
凛が皿を差しした。
私はべた。
しかった。でも、温かかった。
「おいしいよ」
「ほんと?」
「ほんと」
凛はしたように笑った。
その顔を見ながら、私はようやく分かった。
族というのは、同じ名字でいることでも、そろって卓を囲むことでもない。
帰ったに怯えず「ただいま」と言えて、相が「おかえり」と返してくれる。
嫌なことを嫌だと言えて、怖いには助けてと言える。
私と凛には、今それがある。
卓へ分の皿を並べながら、私は窓のの音を聞いた。
もう、あのの川の音には聞こえなかった。
ただののだった。