"濁流の中のSOS" 第12話
私が法廷で放したもの
事件からが経つにつれ、活にはしずつ「普通」が戻ってきた。それでも、すべてが元通りになったわけではない。音がい夜には、私は突然あの川の音をいした。背を押された覚が蘇り、眠れないこともあった。凛もでを通ると顔を変え、窓から見える川を避けるように目を伏せた。
私たちはそれぞれ専の助けを借りた。
最初は「そこまでしなくても」とった。けれど、して何もなかったように振るうことこそ、私が続けてきたやり方だった。今度は同じことを繰り返したくなかった。
やがて夫の事件は裁判へんだ。
私は証言することになった。
法廷へ入る、が震えた。夫と同じ空にいるとうだけで体が固くなる。弁護士から、無理に夫を見なくていいと言われ、私は証言台のだけを見ることにした。
質問されたのは、あのの朝から川へ着くまでのこと。夫との銭をめぐるやり取り。背に受けた衝撃。川からがったに夫ももいなかったこと。そして事件以、夫が私名義の通帳や印鑑を求めていたことだった。
私はつずつ答えた。
以の私なら、自分の言葉が誰かをらせないよう、何度も言い換えただろう。「私にも悪いところがあった」「夫も疲れていた」
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と余計な説をしたかもしれない。
でも、そのはしなかった。
事実だけを話した。
弁護側から、夫婦関係が悪化していたから夫をんでいるのではないか、背から押されたため本当に夫だったか見ていないのではないかと問われたも、私はに言い返さなかった。
「押した瞬の顔は見ていません」
私は認めた。
「でも直までろにいたのは夫です。ほかにはいませんでした。そして落ちたあと、夫は助けずにそのをれました。それは私が見た事実です」
それ以でも、それ以でもない。
凛については、必以に法廷で負担を負わせないよう配慮がなされた。彼女が残していたGPSやメッセージ、音声などの記録、専の聞き取りや捜査資料が検討された。私は娘がたちの争いのへたずに済むことを何より願った。
夫側は最まで、最初から命を奪うつもりだったことは否定した。投資で追い詰められていたことは認めても、それと川の来事は別だと主張した。けれど検索履歴、財産管理の文、移記録、携帯話の位置報、事件に私の融関へアクセスしようとした記録、そして凛の端末に残された音声が、別々の方向から同じのを照らしていた。
判決の、私は凛を裁判所へ連れてかなかった。
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姉に付き添ってもらい、私はで結果を聞いた。
裁判所は、事故だったという夫の説を退けた。私たちを危険な所へ連れてった経緯、転落に救助せずちった、事件の銭事や記録を総し、計画性を伴うな為だったと判断した。
夫にはい実刑判決が言い渡された。
その瞬、私は勝ったとはわなかった。
失ったが戻るわけではない。凛が父親を怖がりながら過ごしたも、川でにかけた記憶も消えない。
ただ、つだけ終わった。
夫が「そんなことはなかった」と言い続ければ、いつか私たちまで自分の記憶を疑うかもしれない。その恐怖が終わった。
へると、空はよくれていた。
私は裁判所の階段の途でち止まり、きく息を吸った。
携帯話には凛からメッセージが届いていた。
《終わった?》
私はし考えてから返信した。
《うん。終わったよ。帰るね》
すぐに返事が来た。
《今ハンバーグがいい》
わず笑った。
裁判の結果より、夕の献を話せることの方が、そのの私にはずっと切だった。
へ帰る途、私は初めて気づいた。
私は夫を失ったのではなかった。
ずっと放せずにいた「でなければ族ではない」というい込みを、ようやく放したのだ。