"濁流の中のSOS" 第8話
娘を証にしないために
夫が「母親による洗脳」を主張していると聞いた、私はすぐ反論したくなった。凛がどれほど父親を怖がっていたか、私が何もらなかったこと、GPSも姉への相談も娘自が始めたこと。そのすべてを相へ突きつければいいとった。
だが姉は、隣から静かに言った。
「凛の話を、あなたが証しようとしない方がいい」
最初はが分からなかった。
弁護士も同じ考えだった。夫が私による誘導を主張する以、私が凛の言葉を代弁しすぎれば、そのこと自体を都よく利用されるおそれがある。必なのは、歳の子どもへ何度も同じ話をさせることではなく、専の支援のもとで、凛自の状態や発言を丁寧に扱うことだった。
数、子どもの理支援に詳しい専が、私たちの滞先を訪れた。
私は別で待った。
面談は、私が像していたような厳しい聞き取りではなかった。事件当のことをすぐ尋ねるのではなく、学の話や好きなものの話から始め、絵を描きながらしずつ緊張をほぐしていく。ドア越しに聞こえた凛の笑い声は、本当に久しぶりだった。
面談のあと、専は私へ言った。
「凛さんは、お母さんを守らなければという責任をく背負っています」
その言葉が胸へ刺さった。
川で私を助けただけではない。
広告
父親の異変をじたも、姉へ相談したも、証拠になりそうなを隠したも、凛はずっと「お母さんを困らせないように」「お母さんを守るために」と考えていた。
歳の子どもが背負うには、すぎる役割だった。
「今は、凛さんが子どもへ戻れるを作ってあげてください」
私はくうなずいた。
そのの夕方、姉がスマートフォンを見せてくれた。
「これは警察にも提したけど、あなたも度見ておいた方がいいとう」
画面には、凛と姉のでひとほどから交わされていたメッセージが並んでいた。
《お父さん、今変だった》
《お母さんには言わないでって言われた》
《に乗るの怖い》
《今は自分の部にいる》
《お母さん帰ってきた》
い言葉ばかりだった。
だからこそ、そこに含まれた恐怖がはっきり伝わった。
付を見ていくと、私と夫がのことで言い争ったの午に集している。私が買い物へたわずかなにも、夫は凛へ何かを言っていた。私へぶつけられない苛ちや支配欲が、娘へ向かっていた能性があった。
「どうして気づかなかったんだろう」
わずからた。
姉は何も言わなかった。
私は画面を見ながら、自分を責める言葉を何度もみ込んだ。ここで私が壊れれば、また凛が私を支えようとしてしまう。それだけは繰り返してはいけない。
広告
「見せてくれてありがとう」
私はスマートフォンを姉へ返した。
夫はまだ、自分の言葉で現実を塗り替えられるとっている。私を定な妻にし、凛を母親に操られた娘にすれば、自分だけが正常な父親として残れると考えているのかもしれない。
けれど今回は、のでの夫婦喧嘩ではなかった。
GPSの記録がある。音声がある。メッセージがある。私へ財産管理を迫る文がある。そして専の支援のもとで確認される、凛自の状態がある。
私はもう、夫を言い負かそうとはわなかった。
ただ、客観な記録をつずつ積みげればいい。
事件から週ほど経った頃、弁護士と緒に再び警察署へ呼ばれた。
担当刑事は、これまでよりいファイルを机へ置いた。
「ご主の融関係を調べたところ、かなりな事実が分かってきました」
私は背筋を伸ばした。
ファイルのには、夫名義の複数の座や取引履歴がまとめられていた。
そしてそこで初めて、私はった。
夫が私に隠していたきな投資損失と、借入れのを。